1月の読書メモ(科学)

ハッブル望遠鏡 宇宙の謎に挑む』

カラー版 ハッブル望遠鏡 宇宙の謎に挑む (講談社現代新書)

カラー版 ハッブル望遠鏡 宇宙の謎に挑む (講談社現代新書)

 ハッブルの撮った美しい天体写真約百点とともに,この宇宙望遠鏡計画の経緯,得られた成果,次世代の宇宙望遠鏡まで,一挙に紹介してくれる。遅れに遅れた打上,ピンぼけ,予算削減…。紆余曲折はあったが,史上初の宇宙望遠鏡ハッブルはたくさんの成果をもたらしてくれた。
 宇宙空間はホントに物がなくて透明で,遠くの天体からの電磁波がせっかく地球まで届いてくれるのに,ほんのわずかな薄い大気のせいで,ものすごいノイズが入ってしまう。シーイングってゆらゆらゆらゆらすごいらしい。その問題を一挙に解決してしまう宇宙望遠鏡は古くから構想されていた。
 130億光年も先の銀河を発見したハッブル・ウルトラ・ディープ・フィールド(HUDF)はすごい。星のほとんどない領域を,ハッブル地球を400回も回る間ずっと露光して一万もの銀河を見つけた。
 遠くだけではなくて,身近な太陽系の惑星観測にもハッブルは活躍。惑星の近くまで行く探査機に解像度ではかなわないが,長い時間観測が可能なので,定期的観測により気象変化などを研究できる。太陽系の外の惑星も,ハッブルは可視光でとらえている。みなみのうお座の一等星,フォーマルハウトなど。
 ハッブルは,打上以来何度も修理・メンテナンスを続けて運用されてきた。でもその寿命も尽きつつある。そこで次世代宇宙望遠鏡の計画がある。ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡。天文学者でも技術者でもなく,NASAの第二代長官にちなんだ命名だ。アポロ計画等を推し進め,NASAの基礎を築いた功績が評価されたのだという。本書では,2013年に打上予定とされていたが,ハッブルの補修や開発の遅れで2015年以降に延期されてるようだ。
 ジェームズ・ウェッブ望遠鏡は,ハッブルのように地球を回るのではなく,ラグランジュ点(L2)という月軌道より遠いところに設置する。ここでは,望遠鏡は地球と同じ公転周期で太陽の周りを回る。しかも望遠鏡から見て太陽と地球が同じ方向に見えるので,都合がよい。太陽も地球も,天体観測の邪魔になるから。ただハッブルの2.4mに対して4m以上と大きな口径の望遠鏡を,これほど遠くに打ち上げるのはやはり大変。
 やあ,はやぶさもドラマチックだけど,ハッブル宇宙望遠鏡もいろいろと困難乗り越えて成果出しててすごいな。遅れに遅れた打上,ピンぼけ,予算削減…。映画化しないのかな?

『ホーキング、宇宙と人間を語る』

ホーキング、宇宙と人間を語る

ホーキング、宇宙と人間を語る

 科学史のおさらいから入って,「実在とは何か」という哲学問題や,相対論・量子論の概要,それを基にした現在の宇宙論について,平易に親しみやすく解説してくれる。
 古くから哲学者が大好きな「実在」の問題については,「モデル依存実在論」という立場をとっている。まあ物理学者の大半は同じなんだろう。観測結果をよく説明するモデルであればそれを採用しよう,という立場で,「本当に実在するのか」という扱いにくい問いは避ける。賢明だと思う。
 量子論については,粒子と波の二重性,不確定性原理の二つを強調。これさえ知っておけば大丈夫と優しい。ただ,ファインマン経路積分については結構詳しく紹介して,現在から過去へと宇宙の歴史を辿る「トップダウン的アプローチ」につなげている。すべてのとりうる経路を辿って今の状態があるのだ。
 宇宙の起源については,無境界条件を解説。宇宙がまだ小さく,一般相対論と量子論の双方に支配されるようなサイズだったころには,時間次元がなくて空間次元が4つあったという。北極南極は他の地点と何ら変わらないのに,そこだけ経度が不定になってしまうのと似た話。
 巻末近くでは,神と人間原理の関係。自然が混沌として見え,神の存在で世界を説明してきた古代から,ノイズの少ない天体の運行の観測から自然法則の概念が芽生え,地上の法則との統一,決定論の全盛期を経て,再び人間原理という「神」に回帰したのだろうか。いや,そうではない。マルチバースの考えでは,自然法則や物理定数が,生命や人間の存在を許容するように奇跡的にうまく微調整されているこの宇宙のほかにも,無数の(10^500個)宇宙があるとする。そう説明することで,創造主の存在は不要になる。
 …実は,いろんな本でこういう説明を読んだのだけど,いまだにいまいち腑に落ちない。でもホーキングたちのような優秀な頭脳が,そういう結論に達しているのだから,信頼してもいいような気はするな。
 哲学との関係で印象に残ったのは,しょっぱな第一章の,「現代において哲学は死んでしまっているのではないでしょうか。哲学は現代の科学の進歩、特に物理学の進歩についていくことができなくなっています。」というくだり(p.10)。確かに。以前読んだ「時間」についての哲学本には強烈な違和感を感じた。相対論に関する理解なしに,時間を哲学することができるわけないよな…。
「万物の理論」としてはM理論がなかなか有望らしい。ただしこれは複数の理論を重ねた「世界地図のようなもの」。ふうん,リーマンのゼータ関数みたいなものかな。ゼータ関数は,特異点以外どこでも無限回微分可能な連続関数なのに,定義域全体を一つの式では表せず,解析接続で複数の式をパッチワークのようにつないで表したりするし。

『物理数学の直観的方法』

 学生時代に出会っていたらなあ,という本。ベクトル解析やフーリエ変換複素関数論,解析力学など,基本をイメージで把握しようという本。結構有名な本らしいけど,誰も教えてくれなかったよ…。
 複素数の掛け算は回転+拡大だ,とか,rotは流速の差による渦の回転軸を向く,とか,個々の話はどこかで聞いているが,それがまとまっているのが良い。厳密さを犠牲にして徹底的にイメージ化してるのも分かりやすい。
 それはそうと,この普及版の解説を書いているのって,出身研究室を継いだ先生だ…。