4月の読書メモ(税金)

国税記者  実録マルサの世界』

国税記者  実録マルサの世界

国税記者 実録マルサの世界

 近年の脱税事件の手口から,国税当局の組織,取材の様子まで。著者は共同通信国税庁記者クラブを経験し,テレビマンに転身してまた国税の取材をしたそう。四十路でも若い記者に混じって活き活きしてる。
「申告漏れ」「所得隠し」「脱税」には区分があるらしい。手続上のミスが「申告漏れ」,意図的な仮装・隠蔽行為があって重加算税が課せられるようなのは「所得隠し」,査察部が地検に告発した事案が狭義の「脱税」。一億を超えないと査察部は扱わないから,「脱税」とは報道されない。(p.46)
 査察部が強制捜査する対象は,ほどんと個人か中小企業だという。中傷ならワンマン社長が自分で帳簿も操作できる。大企業だと内部告発されるのが関の山。急激に業績が拡大した中小企業は,脱税の誘惑も大きく,手を染めてしまう
 査察部には強制捜査を担当する通称ミノリという部署のほかに,内偵を行なうナサケという部署があるのは知らなかった。ナサケからミノリに事案を送ることを隠語で「嫁入り」って言うんだって。勿論,国税局には査察部のほかにも調査部があって,そこでは調査官が大企業とかの帳簿を淡々と調べてる。
 査察部は仕事きついらしくて,最近は若い職員に人気がないらしい。同様に時間的・体力的にきつい社会部の記者も,最近は若者に敬遠されるそうだ。華々しい活躍を夢見る若者が減っているということだろうか。職務内容が変に美化されず見えるようになってきたための,合理的判断なのかも。

『脱税のススメ―バレると後ろに手が回る』

脱税のススメ―バレると後ろに手が回る

脱税のススメ―バレると後ろに手が回る

 タイトルがすごいけど,脱税を奨励してるわけではなく,税務調査の実情や,よくある脱税手口の紹介。一応。これらの手口は犯罪だし,税務当局に既知だから失敗の可能性もあると釘を刺す。
 ただ,所得や在庫を意図的に隠したり,経費をでっちあげたりしなければ,いかなるやり方で課税を逃れていても「脱税」とはならず単なる「課税漏れ」になるという。脱税の立証責任は当局にあるから,証拠が残らないようにやれば見逃されることも多いそうだ。 本当に勧めているのかもしれないな…。元国税調査官だけに,いろいろと詳しい。
 やはり税金は取りやすいところから取るのが基本らしく,ノルマを抱えた税務調査官も,易きに流されがちなのは仕方ないんだろうな。それだけに,知識をもたず,税務署を極端に恐れるようなのは,「税金をもっと取ってください」と言ってるようなもの。
 査察部が活躍するのは,脱税額が高額で悪質な特殊なケース。この本は,もっとつつましい納税者に役立つ税務調査の話がメイン。といっても特別調査班の「無予告調査」なんてのもあって,恐れられてはいるらしい。
よく「修正申告」したというのがニュースになるけど,あれば税務署の指摘を受けた納税者が自発的に申告額を直すこと。税務署は半強制的な「更正」という手段も取りうるけど,それに対して納税者は不服を申し立てることができるので,税務署は好まない。やっぱりトラブルは避けたい。
 飲食店など,客として利用した調査官が伝票に印をつけておき,後の調査でなくなってないか調べるとか,取引先を調べてちゃんと売上に対応する取引があるか調べる「反面調査」とか,怪しいと思われるといろいろと詮索される。期末に焦って税金対策をするのは愚の骨頂。知識と冷静沈着が肝心とか。