4月の読書メモ(科学)

『海底ごりごり地球史発掘』

海底ごりごり地球史発掘 (PHPサイエンス・ワールド新書)

海底ごりごり地球史発掘 (PHPサイエンス・ワールド新書)

 微化石,特に珪藻化石が専門の著者による,海底掘削調査の紹介。海底調査の概要から船上生活の実際まで,なかなか詳しいわりに肩肘張らずに読める。地層は地球環境のタイムカプセル。
 日本の「ちきゅう」やアメリカの「ジョイデス・レゾリューション」といった科学掘削船で,海底を何千メートルも掘り,コアを採取して堆積物を分析すると,地球の歴史の様々なことがわかる。過去に北極と南極が反転していたことも,この種の調査で確証された。地磁気反転説は日本人(松山基範)の業績。
 掘削用のドリルピットの仕組みや,「ちきゅう」が世界で初めて導入したライザー掘削システムについても図や写真を交えた説明。コアを収容するための筒,コアバレルの「最先端」にはコア脱落を防ぐ弁「コアキャッチャー」がついてるそうだ。それでもときには回収率は二割を下回る。厳しいんだな。
 専門の微化石研究についても熱く語る。珪藻,有孔虫,放散虫,渦鞭毛藻などの小さな海生生物は,「進化速度が速く、世界中に広がりやすく、繁栄しやすいと同時に絶滅しやすい」(p.107)ため,地層の年代を詳細に決められる。示準化石の優等生。おまけにコアから採る試料の量も少なくて済む。
 掘削船の生活にも興味津々。飲酒は禁止だけど何かにつけてパーティ。二交代のシフト制で,一番の楽しみは食事とか。研究者だけでなく,屈強な体格のドリラー,運搬や半割などコアの取扱をしてくれるテクニカルスタッフ,コックさん,清掃スタッフ,カメラマンなど裏方の紹介も忘れない。
 他の分野の研究にも一通り触れてくれる。堆積学,古地磁気研究,地球化学と微生物学。物性物理では,回収が不完全なコアだけでなく,掘削孔に直接センサを入れる調査もするそう。乗り組む人々の国籍も様々で,活気があって楽しそうだなぁ。喧嘩など多少のトラブルはあるようだけど。
 一つ間違った記述を発見。K-Ar法の説明で,「岩石中に含まれるK40とAr40の量が等量であれば、岩石が固まってから『12億5000万年経った』ということがわかりますし、K40の量がAr40の量の2倍あれば『6億2500万年経った』とわかります」(p.109)。
 半減期の半分の間に元の量の1/3が崩壊していることになるってわけないよね。半減期の半分では,1/√2が崩壊しているはずだから,「K40の量がAr40の量の2.414倍あれば」でないと。あるいは,log2/log3≒0.631だから,「K40の量がAr40の量の2倍あれば『6億2500万年経った』とわかります」じゃなくて,「K40の量がAr40の量の2倍あれば『7億8900万年経った』とわかります」じゃないと。

『いちばんやさしい地球変動の話』
いちばんやさしい地球変動の話

いちばんやさしい地球変動の話

 マグマ学者が語る地球科学。図が豊富で良い。意欲的な中高生なら読めそうな感じ。時が来たら子供に薦めたいかも。地球と生命の歴史,日本列島の形成,地震と火山。プレートテクトニクスが重要な鍵。
 海洋地殻と大陸地殻は組成が異なる。玄武岩質の海に対して,大陸は安山岩質で二酸化珪素に富み,軽い。両者はマントルに浮いているから,軽い大陸地殻は海洋地殻より厚みがあって,そのため標高が高くなる。
 海洋地殻は,プレートの裂け目(海嶺)から,マントルが上昇してきて冷え固まってできる。大陸地殻は,その海洋地殻が,沈み込み帯でマントルに落ち込むときにできる。海洋プレートから絞り出された水が,マントルを溶かしてマグマとなり,それが上昇して冷え固まることで大陸地殻ができる。
 38億年前から始まったこのプレートテクトニクスが,大規模な地球変動をもたらしてきた。日本は,11あるプレートのうち4つがひしめき合う世界でも稀な場所。地震や火山の活動が激しいのも無理ないな。
 もちろん地球のすべてが分かったわけではないが,かなりのことが分かってて,興味深い。

『科学嫌いが日本を滅ぼす―「ネイチャー」「サイエンス」に何を学ぶか』
科学嫌いが日本を滅ぼす―「ネイチャー」「サイエンス」に何を学ぶか (新潮選書)

科学嫌いが日本を滅ぼす―「ネイチャー」「サイエンス」に何を学ぶか (新潮選書)

 イギリスの「ネイチャー」とアメリカの「サイエンス」。この二大科学雑誌を中心に,科学について語る。両誌の歴史,科学にまつわるスキャンダル,日本の科学の未来まで。
 なぜ英米のこの二誌が抜きんでたのか,アインシュタインの人生を概観することで要領よく説明。ドイツ語の凋落はやはり戦争のせいだな。
 ピアレビューの制度が20世紀の初めの方まではなかったというのは意外。南方熊楠はネイチャーに51本も論文が掲載されてるが,それは査読が始まる前。
 著者の竹内氏には確か遅くできた子供がいたけど,その出産のときホメオパシーに遭遇した体験談があった。助産師が妻を産気づかせるために砂糖玉をくれて,それで陣痛が強くなったんだって。そんなホメオパシーを肯定する論文がネイチャーに掲載されたこともあるらしい。1988年。
 でも著者は擬似科学にすぎないからという理由で掲載しないという態度はいけないという。有力な科学誌が掲載したおかげで,その検証が行なわれ,ホメオパシーが科学的にダメであると決着がついたんだから良いではないかと。うーむ,そんなものかな??
 福一原発震災についても熱く語っている。科学不信がはびこる状況にいたたまれないらしく,悪質な危険デマを糾弾。昔から行なわれてきたイデオロギッシュな立場からのダメ批判が,反原発の声をすべていっしょくたに「狼少年」と切り捨てる風土を産んできた。そのことが,今回の惨事につながったとしてる。