4月の読書メモ(原発)
『原子力発電がよくわかる本』
- 作者: 榎本聰明
- 出版社/メーカー: オーム社
- 発売日: 2009/03/01
- メディア: 単行本
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原子炉の制御の話いろいろ知らなかった。原子炉の出力って必ずしも制御棒で制御するわけでなくて,ホウ酸濃度とか冷却材の流量を変化させて制御したりするんだ。
BWRの場合,冷却材である水の流量を上げると,燃料棒表面に分布する気泡の分布が変って,燃料棒付近の水の量が増える。そうすると水は減速材でもあるので,中性子がより減速されるようになって核分裂が増え出力が上昇する。制御棒を小刻みに動かすのは悪影響が大きいので流量変化で制御するといい。
内容が偏向しているかというと,それほどひどくは感じられなかった。ただ廃棄物問題等,やっぱり楽観的。原子炉一基が一年稼働すると,ガラス固化体が30本にもなるとは「そんなに?」驚いて読んだのだけど,著者は十万世帯一年分で一本だから少ないと強調(p.204)。うーんちょっと感覚が違うかも。いやでもそれだけ大量のエネルギーを使っているということなんだな。と後ろめたさを感じたりする。
著者のように,原発に「携わっている」という事実は認知的不協和を生むのだろう。ゼンメルワイスの説を受け入れようとしなかった医師たちと何だか似てる。原発の場合は批判者のレベルが概して低かったり,推進者向けでなく市民向けのアピールに偏っていたりして。
原発側であれ反原発側であれ,批判に耳を貸さない方が仲間内での評価アップにつながることはあるのかも。未知のこと,不確定のことが多いので,科学的論理的に破綻してなくてもかなりの裁量の幅があって,その範囲内での極端には行ってしまいそう。
『原発のコスト――エネルギー転換への視点』
- 作者: 大島堅一
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2011/12/21
- メディア: 新書
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著者は経済学者なんだけど,金銭に換算できない「被害の総体」のすべてが賠償されるべしと主張しているのは何だか不思議(p.46)。
もちろんコストの計算はしていて,減価償却費・燃料費・保守管理費等の直接コストのほかに,高速増殖炉・再処理技術等の技術開発や立地対策に支出される政策コスト,環境破壊や事故処理を通して外部が負担している環境コストも考慮する必要があると強調。それはそうだろうな。
結局,事故を計算に入れなくても,脱原発による便益は年平均約2兆6400億円で,脱原発にかかるコスト年間約1兆4700億円を上回るとしている(pp.196-199)。この数値が妥当なものかどうかは皆目見当がつかない。よもや結論ありきの計算ではないだろうけど。
原子力に関するすべての情報を公開し完全に透明にすることで,エネルギー政策を民主化せよとも主張。まあ正論だろう。
難しいのは,市民が市民がと言っても,たいていの人はあんな事故があってもあんまり関心をもって調べたりウォッチしたりしないし,公開情報を駆使して発言できるのは意識の高いプロ市民か,そうでなければ「原子力村の村民」か「準村民」ってことにされちゃいそうなところかな。もっと冷静に情報を媒介してくれるメディアがあるといいんだけど。
- 作者: NHK ETV特集取材班
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2012/02/14
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事故直後から測定を始めた科学者の木村真三さんの経歴が興味深い。チェルノブイリの調査を,所属する研究所に止められてて,不本意だったところに原発事故が起きたらしい。速攻で辞表を出して(妻には事後報告!),測定へ赴く。熱血だなぁ。番組にかかわったNHKの人たちも,同様に熱意がこもっている。小出助教も関わっていると聞いたNHK幹部は,偏向しているのではないかと難色を示したというが,うまく押し切って放映にこぎつけたそうだ。
もちろん,「行政がやらないならば、自分たちで調べて公表する」という姿勢は立派で,この番組スタッフがそういう雰囲気の先鞭をつけたのは評価していいと思う。得られたデータも貴重だろう。ただ,本の内容は(番組の内容も)やはり理性でなく感情に訴えかけるだけで,いまいちだった。