3月の読書メモ(科学・技術)

『どうして時間は「流れる」のか』

どうして時間は「流れる」のか (PHP新書)

どうして時間は「流れる」のか (PHP新書)

「時間の矢」について。2001年の『図解雑学 時間論』を改稿したものらしい。物理学者による興味深い話がいろいろ。
 古典物理,量子論含め,物理の法則はそのほとんどが時間反転に対して不変。なので,時間の流れに向きがある必然性って実は明らかでない。時の流れの起源を探る。
 もちろん,絶対時間・絶対空間を否定した相対性理論の解説もあり。アインシュタインはマッハの影響を強く受けてるのだが,マッハの思想は重要。絶対時間,絶対空間が信じられてた19世紀末に,物質がなければ時間も空間もありえないと喝破した。速度の単位マッハもこの人。
 時間の矢は熱力学で現れる。摩擦や拡散といった不可逆過程は,過去へ向かっては起こせない。これは孤立系のエントロピーが時間とともに増大するという第二法則。微視的な場合の数が多く割り付けられた巨視的状態が実現すると説明される。部屋の片隅に空気が集まっている状態は確率的にありえない。
 時間の流れとは,エントロピーが増大する流れ。でも大事なのは,宇宙が低いエントロピーの初期条件を用意してくれたこと。最初の状態が熱平衡とはほど遠かったために,時間の流れが生じたのである。そしてどこへ向かうか。19世紀には宇宙は熱的に一様な「熱死」に向かうとされていた。
 しかし重力を考慮に入れた重力熱力学では,もっともエントロピーの高い状態は,宇宙のあちこちにブラックホールがぼこぼこあるような状態らしい。宇宙論的時間の矢。宇宙は膨脹しているが,その宇宙膨脹が低エントロピーを供給してくれている。最初の星が核融合反応をしつくしてしまうことなく核融合が途中で終わったために宇宙に大量の水素が残った。この宇宙膨脹による低エントロピーが,宇宙の進化,生物の進化をもたらした。進化はエントロピーが減少していく過程。「宇宙が…適切な速さで膨張を始めたこと…があらゆる種類の時間の流れの原因と考えられるのです。」p.196
 タイムマシンについても紹介。ワームホールタキオンは実在が確認されていないが,普通の物質でできた高速回転円筒によってもタイムマシンが構成できるんだという。原子核の密度くらいの巨大円筒を,軸周りに高速回転すると時空が引きずられて,円筒付近では何物も円筒の回転方向に逆らって運動することができなくなる。通常時間は未来にしか行けない一方通行,空間はどちらでも自由に行けるのだが,高速回転円筒の近傍ではこの時間と空間の性質が逆転。すなわち,空間を一方向にしか行けなくなるかわり,時間をどちらにでも進めるようになる
 勉強になる。でもいつもちょっと疑問に感じるのは,エントロピー増大の話で,ある巨視的状態がいくつの微視的状態で実現されてるか勘定するとこ。どういう微視的状態を特定の巨視的状態として観察するかは,すごく恣意的な話ではなかろうか。微視的状態としてはすべて区別がつくはずなのに。

『図解・ボーイング787vs.エアバスA380

 最新鋭の旅客機を紹介。ボーイングエアバスが,それぞれ経済性と大型化という異なる方向性を目指して開発。ここに至った歴史的経緯から,両者のスペック比較など詳しい。
 ボーイングは当初,先行していたエアバスA380が狙っていた大型化は避けて,高速性能重視の中型機を開発しようとしていたが,911によって旅客需要が激減する中で,高速化による運賃上昇は受け入れられないと断念。経済性重視の中型機に決定した。初めは7E7と呼んでいて,21世紀だし従来の名付け法にこだわることもあるまいと7E7のままにしようとしていたが,中国系航空会社のたっての希望もあって,787と命名したとか。八は末広がりだし(これは日本限定?),縁起がいいから。北京五輪も2008/8/8開会だった。
 ゲン担ぎはボーイング自身もやっている。ロールアウトの日程を,2007年7月8日にして(2007/8/7←y/d/m)それにこだわった。無理やり日程を守ったこともあって初飛行,型式証明取得が大幅に遅れてしまう。エアバスA380も遅れたが,787は三年も。
 A380は四発だけど,両端のエンジンは逆噴射できないんだとか。エンジンが大きく,取付位置も胴体から遠いため,一方が故障するとモーメントが大きくなりすぎる。着陸進入速度を抑えたので,内側二機の逆噴射でも十分停止できるようになっている。
 ボーイング787エアバスA380のほかに,ボーイング747-8とエアバスA350XWBも紹介。747-8は大型機747-400をもとに,二階デッキを後ろに伸ばすなどさらに大型化したもの。A350XWBは,経済性重視の中型機で,ボーイング787同様複合材料を多用して燃費向上。

3月の読書メモ(北朝鮮)

金正日が愛した女たち―金正男の従兄が明かすロイヤルファミリーの豪奢な日々』

 著者は脱北者で,97年に暗殺された。韓国への亡命から14年,本書(の原書)刊行の翌年のことだった。間近で見た金正日一家の日常と,自身の亡命生活を告白。
 叔母が金正日に見初められ,本妻の位置に収まったことで著者もロイヤルファミリーの一員に。その叔母は正男を産み,著者はよく正男の世話を焼いた。前半で暴露される金一族の暮らしよりも,後半の脱北・亡命についての話が衝撃的だった。著者は魔が刺したとしか思えない。
 著者も北朝鮮では権勢を傘に着ていて,パワハラもし放題。それを当然のことと思っていた。ただ資本主義世界に興味をもち,21歳若気の至りでジュネーブ留学中に韓国大使館に電話アメリカ行きを希望するが,いつでも行けるからと韓国への亡命を勧められ,話に乗る。なんといういきあたりばったり。
 韓国では,苛酷な取り調べが待っていた。ロイヤルファミリーの一員であることは伏せていたが,あっというまにボロがでて真実を告白。この本に書いたようなことは洗いざらい話したのだろう。国外への移動は制限され,話が違うと憤る著者。そのうち利用価値がなくなると,亡命資金も先細りに。
 若かったせいもあるだろうが著者は脇が甘い。亡命を選択するにしてはまったく覚悟が足りなかった。亡命初期に,金日成還暦祝いのロレックスを風俗店の支払いにするとか,孤独で寂しかったころのガールフレンドに出自を告白,すぐに去られるとか。本書刊行も浅はかだった
 安定していたKBSを脱サラして起業するが裁判沙汰となり結局は失敗して妻子に辛労をかける。つましく暮らす,というのは生い立ちを考えれば無理なのかもしれないが。娘が誕生した時は,大喜びで友人に電話をかけまくるなど,無邪気というか,要するに凡人ということだろうか。
 それで本当に境遇も凡人であればよいのだが,さにあらず。凡人っぷりが文字通り命取りになった。著者の本名は李一男。韓永は亡命生活を始めるにあたってつけた名だ。意味するところは「韓国とともに永遠であれ」。 …どうにも切なすぎる…。

北朝鮮はるかなり―金正日官邸で暮らした20年』

北朝鮮はるかなり―金正日官邸で暮らした20年 (文春文庫)

北朝鮮はるかなり―金正日官邸で暮らした20年 (文春文庫)

 著者は金正男の義理の伯母。母の代からの激動の家族史。文章は少し分かりにくいけど時代に翻弄された人生の記録は貴重。
 日帝時代の1935年にソウルの地主の家に生れた著者が,解放後,共産主義に傾倒し,北朝鮮に渡り,その後,女優になった妹が金正日に見初められて正男を産んだために,ロイヤルファミリーの一員として長く過ごすことになる。自分の結婚は十年に満たずに死別している。
 家が地主だったことで,父も母も思想闘争で大変な苦労をしてきた。母も烈女で,女性が虐げられる世の中を打開してくれる共産主義に魅了されて,ソウルに娘たちを残して北へ渡るとか,すごい意気込みだ。それなのに共産党には裏切られてばかりなのはつらい。
 朝鮮戦争の時に母と妹とともに北朝鮮へ渡った。後半のロイヤルファミリーの一員としての生活。物質的には満たされても外部との接触を抑えられ,絶望の高級監獄生活
 息子の一男が南朝鮮へ亡命したのも,それに我慢が出来なくなったからだし,著者自身も最終的には西側へ脱出している。行方知れずになった一男から13年ぶりに電話がかかってくるが,南朝鮮の情報機関(安企部)の影を感じ,素直に喜ぶこともできない。結局一男は暗殺され,著者は南朝鮮の仕業と断定してた。

2月の読書メモ(その他)

『謎とき平清盛

謎とき平清盛 (文春新書)

謎とき平清盛 (文春新書)

 大河見てる人にはおすすめ。「平清盛」の考証を担当してる著者が,時代考証の限界や歴史とは何ぞやといったことを最初の二章でまとめてて,ここは読みどころ。単純に実証史学>歴史小説>時代小説>曲解ってわけでもない。
 しばしば実証史学で明らかになることは,歴史マニアのロマンに逆行。特に多くの人に読んでもらう小説,観てもらうドラマは,考証がでしゃばってはいけない。考証は視聴者にその時代のリアリティを感じさせ,気持ちよく見てもらうためのもの。限界がある。確かに宮崎あおいが鉄漿してたらやだもんね…。
 ただ,著者は大河ドラマでこれだけは許せんという例があったことを挙げてる。2001年の「北条時宗」で,関白近衛基平天皇の御前で切腹するシーン。噴飯ものだという。穢れを嫌う朝廷で上級貴族がそのようなことをするなど,まったくもってありえない。p.70
 第三章からが清盛の時代についての記述。武士と貴族,官位と役職,権門体制論といった総論から,院政の成立,清盛の出生,保元・平治の乱,治承・寿永の内乱まで。著者は,清盛が白河の落胤であるというドラマのとる説は怪しいと見ている。謙信女性説と同レベルだとか。
 でも落胤説を完全に否定するのって難しい。悪魔の証明だ。状況証拠として,本当に落胤だったら,家盛があれほど注目されたはずはなく,清盛は文句なしに嫡子だったはずとしている(p.95)。なるほど,そうなんだろうな。

『モノ言う中国人』

モノ言う中国人 (集英社新書)

モノ言う中国人 (集英社新書)

 中国ネット言論事情。マスメディアが共産党の宣伝部隊である中国では,ネット発情報のインパクトが大。日本だとネットで話題の事件がリアル社会で知られないってのはザラだが,中国ではもっとネットに存在感がある。
 体制という社会的制限の中で,規制はあるにしてもある程度の自由な言論空間を提供するのが中国のインターネット。「話語権」という言葉が近年注目されるが,従来「主流」の人のものだったこの権利が,「非主流」である大衆にも開かれるようになってきた。
「話語権」というキーワードのほか,「五毛党」と「人肉捜索」が面白い。前者は中国特有,後者は日本でも似たような現象が見受けられる。「五毛党」とは,インターネット評論員。政府にとって好ましい世論環境を維持するべく,一ユーザとして正しい意見の書込みによって世論を誘導する,党公認の人々
 書込み一件の報酬が五毛とされていることから,彼らは「五毛党」と呼ばれる。人海戦術で,全国に十万人を超える評論員がいるのではないかと言われてるそうだ。
「人肉捜索」とは,公務員の不正や腐敗,汚職などに憤ったネットユーザー達が,インターネットを駆使してその個人情報を探し当て,晒す行動。「人肉捜索」が下級役人の不正を糾弾したことがきっかけで,その役人が正式に処分されることも多い。政府として適切な対応をとれば,「公明正大な指導者」のイメージをアピールでき,組織の健全化も図れる。ただ,高級幹部の批判は,ネット上でも許されない
 中国のインターネット世論の発信地として,著者は新聞社のニュースサイト,商業サイト,「論壇」や「社区」と呼ばれるコミュニティサイトを挙げているが,それが拡散していく場としての中国版ツイッター「新浪微博」について取り上げられていないのは不思議だった。
 また,共産党による情報操作は,プロパガンダだけでなく,「何を報道しないか」によっても行なわれているとして,著者が挙げていた例に違和感。その例とは,日本の「裁判員制度」。日本では導入が大々的に報道されたのに,中国で取り上げられないのを不審がっているが,内政問題だしね。勘繰り過ぎではないかな。
 中国のネットを騒がせた事件の数々を解説していたり,全般的に,読ませる内容ではあったが,ちょっと不足感も。このあたり,新浪微博上で意識調査をした城山英巳の『中国人一億人電脳調査』を合わせて読むとバランスがいいかも。

『そもそも株式会社とは』

そもそも株式会社とは (ちくま新書)

そもそも株式会社とは (ちくま新書)

 会社はだれのもの?株主主権はどう正当化される?っていう問題を分かりやすく解説。日本型企業統治の歴史,アメリカとの比較,従業員主権論への批判的考察を通じて,「モノ言う株主」を擁護。
 そもそも株主は,会社の売上から,従業員への給料,債権者への支払等を済ませて,残った利益から一番最後に配当を受ける。だから株主の利益を最大化するように運営すれば,会社のステークホルダー皆が利益を受けられる。株式会社という制度はそういう考えに基づいて設計されているのだが,日本では,会社の内部情報を把握し,重要な意思決定をし,付加価値を創造するコア従業員が主権をもつという慣行が広くなされてきた。これが日本型企業統治。80年代のアメリカでは企業買収が相次ぎ,企業の効率化が促進され,それによって株主は利益を得たが,日本ではなかなかうまくいかない。
「株主丸取り論」や「経営者が株価を気にするようになると、現場や人を大事にしなくなる」という日本の株主アレルギーを冷静に克服すべしと著者は訴える。株主主権論は何も従業員や経営者が会社の価値を創造することを否定しないし,短期的利益しか考えないわけではない。誤解を正すのが大事。

『次の超巨大地震はどこか? 過去に起こった巨大地震の記録から可能性の高い地域を推測する!!』

次の超巨大地震はどこか? (サイエンス・アイ新書)

次の超巨大地震はどこか? (サイエンス・アイ新書)

 体系的な読物というより,知識のカタログといった感じ。サイエンス・アイ新書ってそういうの多いな。東日本大震災の検証から,起こる起こるといわれている東海・東南海・南海地震,首都圏の大地震,それに歴史資料に残る過去の大地震のデータを収録。
 首都圏は日本の中でも地震が多い地域で,相模トラフに沿った海溝型地震,プレート沈み込みの応力が点在する活断層を動かす直下型地震の双方が起こりうる。東京湾でも津波は無視できない。怖いな…。
 過去の津波についてもいろいろ書かれてた。昭和58年日本海中部地震では,内陸の小学校が遠足で砂浜に来ていて地震に遭遇,揺れが収まって弁当を食べ始めたときに津波に襲われ,児童13人が流された。津波に思い至らず,高台に逃げる発想がなかったらしい…。
 1960年のチリ津波。このときは,気象庁も日本まで津波が来るとは思っていなかったらしい。ハワイに津波が来ても気象庁からは何の発表もなく,情報のないまま突然三陸沿岸に津波が到来。この教訓から,気象庁は外国で起こった地震にも津波警報を出すようになったという。p.174
 地震の起こり方には,「本震ー余震型」,「前震ー本震ー余震型」のほかに,「群発地震型」がある。複数の同じような大きさの地震が多発する。1965年から二年もの間続いた松代群発地震震度5が9回,震度4が50回で,有感地震の総数は六万を超える。これはつらいなぁ。

2月の読書メモ(医療)

献体 ―遺体を捧げる現場で何が行われているのか』

献体 ―遺体を捧げる現場で何が行われているのか (tanQブックス)

献体 ―遺体を捧げる現場で何が行われているのか (tanQブックス)

 献体の実際と正常解剖の概要献体された遺体がどのような処置で保存され,解剖学実習がどのように行なわれるのか,かなり詳しい。人体解剖の歴史も概観
 人体解剖には,正常解剖,病理解剖,法医解剖の三種類がある。医学生・歯学生の教育・研究目的の正常解剖は,95%が献体された遺体で行なわれる。昔はもっと不足していたが,献体に対する理解も広まり,現在では十分な数の献体登録がなされているという。
 献体は無報酬。大病をしたとかで,医学の世話になった人が恩返しのために登録するケースが多いようだ。献体登録していることを誇りにして充実した日々を過ごしている人も少なくない。日本には献体登録してる人たちの交流の場である献体団体があるが,これは世界でも珍しいらしい。
 歴史好きなので,人体解剖の歴史も面白かった。西洋のと日本のと。江戸時代の人体解剖(腑分け)は,死罪の付加的な刑として,刀剣の試し斬りに代わるものとして行なわれた。切腹はもちろん,下手人や磔・獄門は対象外。下手人っていうのは最も軽い生命刑で,遺体は遺族に返還するからできない。
 諸外国の献体事情についても述べてて,かなり意外なことも。アメリカでは医学以外の献体利用もあるらしい。「自動車事故での人体損傷を調べる実験に利用されたり、防弾着を改良するために弾丸や爆弾で人体を攻撃する実験に利用されたりといった事例が報告されている」(p.114)には心底驚いた。航空機エンジンのバードストライク試験で,死んだ鶏を使うのは知ってるけど…。献体って考えたことないけど,アメリカでは絶対に献体したくないな。
 アメリカでは献体者の遺族に報酬を払うことが法律で禁止されているが,日本ではそういう規制はない。無条件・無報酬ということが倫理規範として機能。ほかに,ドイツでは埋葬費用節約のためのプラスティネーション希望者が結構いるらしい。国によって様々だなぁ。
 やはり自分が,家族が献体することを考えると,かなり抵抗があるな。医学には必要だし,死んだらおしまいなので,べつに嫌がる理由もないんだけどね。遺骨が二三年帰ってこないので遺族は少し困るかな?放射能を無闇に怖がる風潮はなんだかなあと思っていたけど,案外同じような心理なのかも知れない。

『「健康食」のウソ』

「健康食」のウソ (PHP新書)

「健康食」のウソ (PHP新書)

 ダメ本。通読してしまった…。「みの○んた症候群」,「一品健康食ブーム」をこきおろすのはいいんだが,それで著者が何を提案してるかというと,米と味噌を中心とする「粗食」だそうな。
 粗食が良いという根拠らしい根拠は書いてない。単に外国のものなど気に入らん,和食が好き,というだけ。管理栄養士が自分の好き嫌いを押し付けちゃいかんだろ…。大丈夫か??
 マクロビに親和性あるかとおもったら,玄米菜食はお勧めできないという。塩分摂取には寛容。よくわからん。
 トクホとかアメリカとか嫌いらしく,『アメリカ小麦戦略』を真に受けてる。要するに,大企業が嫌いなんだろう。
 とにかくバイアスがすごい。新聞の取材で横浜の長寿率が高い理由を問われ,「どこかの山村なら『みそや山菜などの伝統食が残っているのかな?』と考えますが」p.98 っておいおい…。
 何か著者はいろいろ著書あるみたいだが,ダメの人だと思う。三十年ほど前に「伊豆健康センター」という断食施設(?)で働いていたことがあり,自分でも断食を二十日間してみた(しかも断食終了後にカレーを食って酷い目にあった)とか,飲尿健康法を試してみたとか,ああ,これはダメだと思った。管理栄養士ってこんなのでいいの?

2月の読書メモ(思想)

『一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグル』

一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグル

一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグル

 ルソーが一般意志と呼んだものは,今や情報技術で汲み上げられるのでは?という着想が面白い。原発事故後,著者は何だか頼りない感じもしたが,やはり思想家とされるだけのことはある。
 二十世紀の知識人は,熟議を前提とした民主主義を一押ししてきた。アーレント然り,ハーバーマス然り。しかし,一般民が政治的議論に参加するには高い障壁がある。多くの論点について皆が自分の意見を形成し,表明することは現実的でないし,そもそも間接民主制では選択肢が限られている。
 そうすると,大衆でなく選良による熟議に期待することになるが,これもうまく機能しない。そういった事情から,熟議の理想を放棄して,世の中の「空気」を技術的に可視化することで,合意形成の基礎をつくっていけないか。そんな新しい民主主義を思い描く「エッセイ」。
 ルソーの一般意志は,個人の意志の総和ではなく,共通の利害に重点を置いた人民の総意を意味する。個々人は一般意志が何であるかを知らないが,適切に抽出された一般意志は決して誤らない。なかなか危険な考え方で,これがフランス革命の恐怖政治やナチスの擡頭につながるのだが…。
 ルソーは結社という行為は特殊意志を増長させ,一般意志の形成を歪めると考え,さまざまな意志が互いに差異を抱えたまま公共の場に現れることで,一般意志が成立するとしていた。「一般意志の成立過程において、そもそも市民間の討議や意見調整の必要性を認めていな」かった(p.54)。
 twitterやニコ動等のソーシャルメディアで,何とはなしに発信される情報を,統計的にうまく汲み上げることができれば,それはルソーが夢想した一般意志に他ならないのではないだろうか。分断された言論空間から,人々の無意識の意志を抽出し,統治に活用していけないか。著者はこう夢想する。
 情報技術の発達で,民主主義,政府や統治に関する考え方が根本から変わってしまうかもしれない。具体的にどう「実装」していくかは難しいだろうし,ソーシャルメディアをやる人が増えているとはいえ,ごくごく一部だし,批判も様々ありそうだけど,なかなか刺激的な一冊だった。

『いまを生きるための思想キーワード』

いまを生きるための思想キーワード (講談社現代新書)

いまを生きるための思想キーワード (講談社現代新書)

 政治哲学や倫理学の関連用語21を,各7ページ前後で紹介。特に「正義」「善」など,翻訳から来てる用語は日常語の色がついてまわるので,思想の文脈では注意が必要。
「正義」なんかは,日本語で「義の人」みたいに人情あふれる感じの語感があるけど,英語の「justice」は全然違って「法」「公正」という意味合いが強い。正しい解決のためのルールというある意味冷たい含意がある。
アーキテクチャ」だけでなく「所有」の項にも登場するアメリカの法学者ローレンス・レッシグに興味をもった。クリエイティブ・コモンズの運動を提唱してる人。(主に)ネット上の知的所有権の範囲を限定して,共同創作を推進する活動は,なかなか意義深いと思う。
 著者の本はみなそうだが,全体を通じてシニカルな記述が多い。法,市場,社会規範に続いて,人間の行動をコントロールする手段としてアーキテクチャの比重が増してきているが,これが行きつく先はどうなるだろう,とか。
 アーキテクチャは,マクドナルドのイスに代表されるように,物理的・技術的な手段で意識させずに人を望ましい行動をとるように仕向ける方策。ルールを守ろうと気遣う煩わしさが避けられるかわり,知らず知らずに主体性が排除されていかないだろうか。最終的に残るのは人間だろうか?

2月の読書メモ(政治)

『政治家の殺し方』

政治家の殺し方

政治家の殺し方

 利権にノーを主張して2002年に就任した前横浜市長の筆者が,改革に反対する勢力から受けた誹謗中傷の数々。これはすごい。捏造された女性スキャンダル,市職員からの脅迫…。地方政治の闇は深い。
「火がないところに煙は立たない」とか,「嘘も百回言えば本当になる」と言われるように,事実無根のスキャンダル攻勢で政治家の政治生命を断つのはとても簡単だという。週刊誌だけならまだしも,結婚の約束を反故にされたという女性が顔出しで記者会見して,テレビで放映されたのはダメージ大だった。
 これが国政であれば,議会で与野党が論戦する中で,真っ赤なウソであることが暴露されるのだろうが,オール与党の地方政治ではこういった作用が起こらない。著者は裁判で潔白を証明する作戦に出るが,時間もかかる。その間にスキャンダル発信側の目的は達せられる
 市役所改革ではいろいろと職員からの恨みを買ったそうだ。交通費が1月定期で計算していたのを半年定期にしたり,「知恵を凝らした」特殊勤務手当をなくしていったり。そういう既得権を奪う改革に対して,職員から「死ね」という文面のメールが来たり,「殺す」という脅迫電話が来たり。
 著者は,「清濁併せ呑めない」タイプで,そういう性格が執拗な攻撃を招いてしまったのだろうと自己分析している。そうかもしれないが,悪いのは相手だよねえ。改革に抵抗はつきものとはいえ,それにしてもちょっとひどすぎる。

『日本の魚は大丈夫か―漁業は三陸から生まれ変わる』

日本の魚は大丈夫か 漁業は三陸から生まれ変わる (NHK出版新書)

日本の魚は大丈夫か 漁業は三陸から生まれ変わる (NHK出版新書)

 震災・津波以前から,日本の漁業はずっと崩潰への道を走っている。補助金漬けだった漁業を漁獲管理で再生させたノルウェー等の成功例に学ぶことが不可欠。説得力がある。
 三陸の漁港が潰滅的な被害を受けた。これを復興するというのは並大抵でない。奪われたシェアを取り戻すには付加価値が必要。かわいそうだから元に戻すという安易な考えでなく,これを機に日本の漁業をゼロから作り直すくらいでなくては。戦後日本の漁業の歴史,漁業先進国の取組み等を踏まえて提言。水産物放射能汚染についての最後の一章を割いている。
 国が主体となった適切な漁獲管理。これを日本は取り入れられていない。乱獲によって資源量が枯渇して,水揚げは未成魚ばかり。鯖なんかが典型で,日本のスーパーに並ぶのはほとんどノルウェー産。
 日本では小さいうちに獲ってしまうため,魚粉用に買いたたかれてしまう。漁獲量を制限すれば,小さいのをとることは経済的に不合理になるからおのずとこの悪循環は回避できる。それがなぜ日本ではできないのか。補助金でやっている現状,変化を嫌う声が大きいこと,事なかれ主義の横溢だ。
 漁業先進国はしたたか。自国での消費はそれほどでないことも多く,日本への輸出に力を入れていたり。寿司ネタの鮪が減っていくニッチを,サーモンで取りに行こうとノルウェーは国策として回転寿司チェーンとタイアップ。「子供は鮪よりサーモンが好き」と一大キャンペーンを張ったとか。
 p.103「水産庁は、『日本の漁業者は意識が高く、乱獲をしないから、国が資源管理をする必要がない』とか『IQ方式はノルウェーのような、魚が少ない海域では機能するが、日本には適していない』といった、意味不明の理由を並べ」てるらしい。三陸漁業復興を錦旗に,改革が成らないものだろうか?
 ちなみに,この本,図書館で探してもらったんだけど,最初みつからずに手間取った。「にほんのさかなはだいじょうぶか」で検索してもノーヒット,奇怪に思ってると,「にほんのうおはだいじょうぶか」で見つかった。「魚」の訓読みは長らく「うお」しか認められてなかったとはいえ,これは…。

原発訴訟』

原発訴訟 (岩波新書)

原発訴訟 (岩波新書)

 著者は,原発訴訟をライフワークとしてきた日弁連事務総長。社民党党首福島みずほ氏の内縁の夫。熱意がこもっているだけに危険の強調に傾いてて,誤解を招く記述も見られるが,伊方原発訴訟からの日本の原発訴訟の概要がまとまっている。
 やはり地震大国の日本に,54基もの原発を作ってしまったことを大きな問題として追及している。ただ,勝訴はまれで,もんじゅの原子炉設置許可処分の無効確認訴訟での控訴審判決,志賀原発二号炉の運転差止訴訟での地裁判決の二件のみ。いずれものちに逆転敗訴している。
 前半で扱われる原発事故の危険をめぐる話はともかく,ちょっとバイアスがきつかったのは後半部分。労災や脱原発へ向けての課題の箇所。「被曝労働者が労災認定されているケースでも、電力会社は、容易に責任を認めようとしない…裁判所は厳格な立証を求めて、労働者の救済を否定する」(p.195)と,70mSvの労働被曝で「多発性骨髄腫を発症した」とされるケースについて損害賠償を否定した最高裁判決を批判。労災は労働者の救済のため因果関係の証明を要せず広く認められるのに対し,損害賠償を認容するにはしっかりした因果関係の立証が必要なのは,別に不思議でも何ともないのだが。
 また,自然エネルギーの促進で脱原発につなげようとのくだりで,「ドイツにおける再生可能エネルギーの発展は原発の閉鎖計画と連動している。日本では原子力を温存するために再生可能エネルギーの発展を阻害する政策がとられてきた。」(p.239)としているけど,サンシャイン計画ってなかったっけ?
 もちろんいろいろ知らないことも書かれてて勉強になった。原子力損害賠償法では「責任集中の原則」がとられていて,原子力事業者にだけ賠償責任を負わせていることとか。電力会社だけが無過失・無限の責任を負い,メーカーや関連会社は免責。これは原発導入時,英米企業の利益を擁護するためにできた規定で,不合理で違憲の疑いもあり,廃止すべきとしている。現行法では,国の責任について明確な規定はないが,国を免責する解釈は成り立たないとも。
 もんじゅの裁判で,動燃が隠していた安全性に関する重大な報告書が古本屋から見つかったというエピソードには驚く。そんなこともあるのか…。

2月の読書メモ(技術)

『スパイス、爆薬、医薬品 - 世界史を変えた17の化学物質』

スパイス、爆薬、医薬品 - 世界史を変えた17の化学物質

スパイス、爆薬、医薬品 - 世界史を変えた17の化学物質

 有機化学を軸に語られる世界史。人間社会は科学を知る以前から様々な化学物質に翻弄されてきた。科学時代になってからは新たな化学物質が生み出され,それがまた社会を変えてきた。
 そんな,世界史と化学物質の相互作用を見事に描いている。ヴェネチアの繁栄を生み,大航海時代を開いた香辛料,壊血病を防いだアスコルビン酸,高性能な爆薬をもたらしたニトロ化合物,綿やシルクといった繊維,そして医薬品。どの章も興味深く,飽きさせない。
 大航海時代を中心とした第一章,第二章からだいたい時系列で並んでいて,読みやすい。昔のことって今から見るとなかなか想像しにくくて,驚く話も多い。15〜18世紀の長期にわたる航海では,壊血病で船員が激減するのを想定し多めに載せて出港したとか。壊血病ゼロを初めて達成したのはクック船長。
 奴隷制度に関連する化学物質。砂糖と綿の二つは分かりやすいが,最終章で挙げられている変異グロブリンは意外だった。サトウキビと棉の栽培に適したアメリカの熱帯地域では,アメリカ先住民よりマラリアに抵抗力をもつアフリカからの奴隷が重宝した。その抵抗力は鎌形赤血球症の遺伝子に起因する。
 産業革命は繊維産業から起こったが,これは機械だけでなく化学との関連も深い。染料の研究は薬品産業の発展へとつながっていく。19世紀後半には,特にドイツが合成有機化学分野で隆盛を誇る。染料と染色法をめぐる激しい特許紛争がイギリスやフランスの染料業界を弱体化していた。
 ドイツのバイエル社も初めはアニリン染料からスタート。アスピリンにもいち早く注目し商業化した。初期の抗菌剤,サルファ剤はガス壊疽の治療に使われた。一次大戦の頃は,傷から入った細菌がガス壊疽を起こすと,生存のために壊疽した四肢を切断するしかなかった。
 そして最初の抗生物質ペニシリン抗生物質の恩恵は今や誰もが受けている。乳幼児死亡率激減の立役者だろう。避妊薬,特に経口避妊薬も社会を変えた。またモルヒネ,ニコチン,カフェインなどの薬物も,戦争を起こしたり,クーデターの資金源となったり,世界に大きな影響を与えている。
「スパイス、爆薬、医薬品」の範疇に入らないが,塩やフロンも重要な化学物質。人類に不可欠な塩は古代から専売の対象とされてきた。冷凍サイクルを利用した冷凍船は食肉の輸送に威力を発揮していたが,20世紀には冷媒としてうってつけの物質フロン(なぜか本書の表記はフレオン)も合成される。
 1930年,発見者のミジリーはフロンを吸い込んで吐く息で蝋燭を消すという,無毒性,不燃性を示すデモンストレーションを行なった。しかし70年代になるとオゾン層破壊の疑念が生じ,規制されていくことに。PCBも同様の運命に翻弄された。
 初期の麻酔にはエーテルが用いられたが,可燃性で使いにくかった。これを解決するクロロホルム麻酔が登場し,南北戦争などで広く使われた。ビクトリア女王は第八子レオポルドを出産するにあたってクロロホルム麻酔を受けたそうだ。無痛分娩のはしりかな?最近読んだ彼女の評伝には載ってなかったエピソード。

『図解・テレビの仕組み』

図解・テレビの仕組み―白黒テレビから地上デジタル放送まで (ブルーバックス)

図解・テレビの仕組み―白黒テレビから地上デジタル放送まで (ブルーバックス)

 白黒テレビから,デジタル放送,PDPや液晶といった薄型テレビの仕組みまでが一冊でざっとわかる。電波に信号をどうやって載せるのか,映像をどのように圧縮するのかなどかなり詳しい。
 テレビの技術とかってかなりブラックボックスのような感じがしてしまうけど,よく考えればちゃんと納得できる原理に基づいて作られているのがわかる。非常に巧妙にできているので,わかりにくいだけ。身近な技術の仕組みがだいたいでもわかれば,科学への不信感ってもっと払拭できる気がする。

スマートグリッドがわかる』

スマートグリッドがわかる (日経文庫)

スマートグリッドがわかる (日経文庫)

 それほどよくわからなかった。従来の電力量計に代わるスマートメーターを中心に,送配電をうまくやる仕組みのようではあるが。もっと技術面からアプローチしてくれたら理解しやすいのかも。
 電力・エネルギーをとりまく諸々とか,いろんなキーワードとか,各国の状況とか,情報がなんだか羅列してある感じで,あまり頭に入ってこなかった。
 意外にもイタリアでスマートメーターが義務化され普及してるらしいが,これは電気料金の支払いの不正を防ぐためだとか(p.69)なるほどーw。

『理系なお姉さんは苦手ですか? −理系な女性10人の理系人生カタログ−』

理系なお姉さんは苦手ですか? ?理系な女性10人の理系人生カタログ?

理系なお姉さんは苦手ですか? ?理系な女性10人の理系人生カタログ?

 社会で活躍する10人(11人?)の理系女子へのインタビュー。大学院終えて仕事ものってきてるなら,あんまり「お姉さん」じゃなくなって来るのは必然なのだが,一貫して「お姉さん」で通しているのはすごい
 NHKで「大科学実験」のディレクターをしてる等バリバリ働いてる方から,子育てと仕事を両立してる方まで,いろいろ。個人的には,もっとワークライフバランスについての質問・回答も読みたかったかな。
 すごく軽い読み物。「理系は…」とか「文系は…」とか安易な二分法が目に付いたり,世間の臆測を強化してるようなとこもあって少し気になった。
 小島寛之さんのブログでお薦めされていたので読んでみたのだが,ちょっと期待外れかも。題名から察するべきだったか。