2月の読書メモ(思想)
『一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグル』
- 作者: 東浩紀
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/11/22
- メディア: 新書
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二十世紀の知識人は,熟議を前提とした民主主義を一押ししてきた。アーレント然り,ハーバーマス然り。しかし,一般民が政治的議論に参加するには高い障壁がある。多くの論点について皆が自分の意見を形成し,表明することは現実的でないし,そもそも間接民主制では選択肢が限られている。
そうすると,大衆でなく選良による熟議に期待することになるが,これもうまく機能しない。そういった事情から,熟議の理想を放棄して,世の中の「空気」を技術的に可視化することで,合意形成の基礎をつくっていけないか。そんな新しい民主主義を思い描く「エッセイ」。
ルソーの一般意志は,個人の意志の総和ではなく,共通の利害に重点を置いた人民の総意を意味する。個々人は一般意志が何であるかを知らないが,適切に抽出された一般意志は決して誤らない。なかなか危険な考え方で,これがフランス革命の恐怖政治やナチスの擡頭につながるのだが…。
ルソーは結社という行為は特殊意志を増長させ,一般意志の形成を歪めると考え,さまざまな意志が互いに差異を抱えたまま公共の場に現れることで,一般意志が成立するとしていた。「一般意志の成立過程において、そもそも市民間の討議や意見調整の必要性を認めていな」かった(p.54)。
twitterやニコ動等のソーシャルメディアで,何とはなしに発信される情報を,統計的にうまく汲み上げることができれば,それはルソーが夢想した一般意志に他ならないのではないだろうか。分断された言論空間から,人々の無意識の意志を抽出し,統治に活用していけないか。著者はこう夢想する。
情報技術の発達で,民主主義,政府や統治に関する考え方が根本から変わってしまうかもしれない。具体的にどう「実装」していくかは難しいだろうし,ソーシャルメディアをやる人が増えているとはいえ,ごくごく一部だし,批判も様々ありそうだけど,なかなか刺激的な一冊だった。
『いまを生きるための思想キーワード』
- 作者: 仲正昌樹
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/11/18
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「正義」なんかは,日本語で「義の人」みたいに人情あふれる感じの語感があるけど,英語の「justice」は全然違って「法」「公正」という意味合いが強い。正しい解決のためのルールというある意味冷たい含意がある。
「アーキテクチャ」だけでなく「所有」の項にも登場するアメリカの法学者ローレンス・レッシグに興味をもった。クリエイティブ・コモンズの運動を提唱してる人。(主に)ネット上の知的所有権の範囲を限定して,共同創作を推進する活動は,なかなか意義深いと思う。
著者の本はみなそうだが,全体を通じてシニカルな記述が多い。法,市場,社会規範に続いて,人間の行動をコントロールする手段としてアーキテクチャの比重が増してきているが,これが行きつく先はどうなるだろう,とか。
アーキテクチャは,マクドナルドのイスに代表されるように,物理的・技術的な手段で意識させずに人を望ましい行動をとるように仕向ける方策。ルールを守ろうと気遣う煩わしさが避けられるかわり,知らず知らずに主体性が排除されていかないだろうか。最終的に残るのは人間だろうか?