2月の読書メモ(その他)

『謎とき平清盛

謎とき平清盛 (文春新書)

謎とき平清盛 (文春新書)

 大河見てる人にはおすすめ。「平清盛」の考証を担当してる著者が,時代考証の限界や歴史とは何ぞやといったことを最初の二章でまとめてて,ここは読みどころ。単純に実証史学>歴史小説>時代小説>曲解ってわけでもない。
 しばしば実証史学で明らかになることは,歴史マニアのロマンに逆行。特に多くの人に読んでもらう小説,観てもらうドラマは,考証がでしゃばってはいけない。考証は視聴者にその時代のリアリティを感じさせ,気持ちよく見てもらうためのもの。限界がある。確かに宮崎あおいが鉄漿してたらやだもんね…。
 ただ,著者は大河ドラマでこれだけは許せんという例があったことを挙げてる。2001年の「北条時宗」で,関白近衛基平天皇の御前で切腹するシーン。噴飯ものだという。穢れを嫌う朝廷で上級貴族がそのようなことをするなど,まったくもってありえない。p.70
 第三章からが清盛の時代についての記述。武士と貴族,官位と役職,権門体制論といった総論から,院政の成立,清盛の出生,保元・平治の乱,治承・寿永の内乱まで。著者は,清盛が白河の落胤であるというドラマのとる説は怪しいと見ている。謙信女性説と同レベルだとか。
 でも落胤説を完全に否定するのって難しい。悪魔の証明だ。状況証拠として,本当に落胤だったら,家盛があれほど注目されたはずはなく,清盛は文句なしに嫡子だったはずとしている(p.95)。なるほど,そうなんだろうな。

『モノ言う中国人』

モノ言う中国人 (集英社新書)

モノ言う中国人 (集英社新書)

 中国ネット言論事情。マスメディアが共産党の宣伝部隊である中国では,ネット発情報のインパクトが大。日本だとネットで話題の事件がリアル社会で知られないってのはザラだが,中国ではもっとネットに存在感がある。
 体制という社会的制限の中で,規制はあるにしてもある程度の自由な言論空間を提供するのが中国のインターネット。「話語権」という言葉が近年注目されるが,従来「主流」の人のものだったこの権利が,「非主流」である大衆にも開かれるようになってきた。
「話語権」というキーワードのほか,「五毛党」と「人肉捜索」が面白い。前者は中国特有,後者は日本でも似たような現象が見受けられる。「五毛党」とは,インターネット評論員。政府にとって好ましい世論環境を維持するべく,一ユーザとして正しい意見の書込みによって世論を誘導する,党公認の人々
 書込み一件の報酬が五毛とされていることから,彼らは「五毛党」と呼ばれる。人海戦術で,全国に十万人を超える評論員がいるのではないかと言われてるそうだ。
「人肉捜索」とは,公務員の不正や腐敗,汚職などに憤ったネットユーザー達が,インターネットを駆使してその個人情報を探し当て,晒す行動。「人肉捜索」が下級役人の不正を糾弾したことがきっかけで,その役人が正式に処分されることも多い。政府として適切な対応をとれば,「公明正大な指導者」のイメージをアピールでき,組織の健全化も図れる。ただ,高級幹部の批判は,ネット上でも許されない
 中国のインターネット世論の発信地として,著者は新聞社のニュースサイト,商業サイト,「論壇」や「社区」と呼ばれるコミュニティサイトを挙げているが,それが拡散していく場としての中国版ツイッター「新浪微博」について取り上げられていないのは不思議だった。
 また,共産党による情報操作は,プロパガンダだけでなく,「何を報道しないか」によっても行なわれているとして,著者が挙げていた例に違和感。その例とは,日本の「裁判員制度」。日本では導入が大々的に報道されたのに,中国で取り上げられないのを不審がっているが,内政問題だしね。勘繰り過ぎではないかな。
 中国のネットを騒がせた事件の数々を解説していたり,全般的に,読ませる内容ではあったが,ちょっと不足感も。このあたり,新浪微博上で意識調査をした城山英巳の『中国人一億人電脳調査』を合わせて読むとバランスがいいかも。

『そもそも株式会社とは』

そもそも株式会社とは (ちくま新書)

そもそも株式会社とは (ちくま新書)

 会社はだれのもの?株主主権はどう正当化される?っていう問題を分かりやすく解説。日本型企業統治の歴史,アメリカとの比較,従業員主権論への批判的考察を通じて,「モノ言う株主」を擁護。
 そもそも株主は,会社の売上から,従業員への給料,債権者への支払等を済ませて,残った利益から一番最後に配当を受ける。だから株主の利益を最大化するように運営すれば,会社のステークホルダー皆が利益を受けられる。株式会社という制度はそういう考えに基づいて設計されているのだが,日本では,会社の内部情報を把握し,重要な意思決定をし,付加価値を創造するコア従業員が主権をもつという慣行が広くなされてきた。これが日本型企業統治。80年代のアメリカでは企業買収が相次ぎ,企業の効率化が促進され,それによって株主は利益を得たが,日本ではなかなかうまくいかない。
「株主丸取り論」や「経営者が株価を気にするようになると、現場や人を大事にしなくなる」という日本の株主アレルギーを冷静に克服すべしと著者は訴える。株主主権論は何も従業員や経営者が会社の価値を創造することを否定しないし,短期的利益しか考えないわけではない。誤解を正すのが大事。

『次の超巨大地震はどこか? 過去に起こった巨大地震の記録から可能性の高い地域を推測する!!』

次の超巨大地震はどこか? (サイエンス・アイ新書)

次の超巨大地震はどこか? (サイエンス・アイ新書)

 体系的な読物というより,知識のカタログといった感じ。サイエンス・アイ新書ってそういうの多いな。東日本大震災の検証から,起こる起こるといわれている東海・東南海・南海地震,首都圏の大地震,それに歴史資料に残る過去の大地震のデータを収録。
 首都圏は日本の中でも地震が多い地域で,相模トラフに沿った海溝型地震,プレート沈み込みの応力が点在する活断層を動かす直下型地震の双方が起こりうる。東京湾でも津波は無視できない。怖いな…。
 過去の津波についてもいろいろ書かれてた。昭和58年日本海中部地震では,内陸の小学校が遠足で砂浜に来ていて地震に遭遇,揺れが収まって弁当を食べ始めたときに津波に襲われ,児童13人が流された。津波に思い至らず,高台に逃げる発想がなかったらしい…。
 1960年のチリ津波。このときは,気象庁も日本まで津波が来るとは思っていなかったらしい。ハワイに津波が来ても気象庁からは何の発表もなく,情報のないまま突然三陸沿岸に津波が到来。この教訓から,気象庁は外国で起こった地震にも津波警報を出すようになったという。p.174
 地震の起こり方には,「本震ー余震型」,「前震ー本震ー余震型」のほかに,「群発地震型」がある。複数の同じような大きさの地震が多発する。1965年から二年もの間続いた松代群発地震震度5が9回,震度4が50回で,有感地震の総数は六万を超える。これはつらいなぁ。