3月の読書メモ(科学・技術)

『どうして時間は「流れる」のか』

どうして時間は「流れる」のか (PHP新書)

どうして時間は「流れる」のか (PHP新書)

「時間の矢」について。2001年の『図解雑学 時間論』を改稿したものらしい。物理学者による興味深い話がいろいろ。
 古典物理,量子論含め,物理の法則はそのほとんどが時間反転に対して不変。なので,時間の流れに向きがある必然性って実は明らかでない。時の流れの起源を探る。
 もちろん,絶対時間・絶対空間を否定した相対性理論の解説もあり。アインシュタインはマッハの影響を強く受けてるのだが,マッハの思想は重要。絶対時間,絶対空間が信じられてた19世紀末に,物質がなければ時間も空間もありえないと喝破した。速度の単位マッハもこの人。
 時間の矢は熱力学で現れる。摩擦や拡散といった不可逆過程は,過去へ向かっては起こせない。これは孤立系のエントロピーが時間とともに増大するという第二法則。微視的な場合の数が多く割り付けられた巨視的状態が実現すると説明される。部屋の片隅に空気が集まっている状態は確率的にありえない。
 時間の流れとは,エントロピーが増大する流れ。でも大事なのは,宇宙が低いエントロピーの初期条件を用意してくれたこと。最初の状態が熱平衡とはほど遠かったために,時間の流れが生じたのである。そしてどこへ向かうか。19世紀には宇宙は熱的に一様な「熱死」に向かうとされていた。
 しかし重力を考慮に入れた重力熱力学では,もっともエントロピーの高い状態は,宇宙のあちこちにブラックホールがぼこぼこあるような状態らしい。宇宙論的時間の矢。宇宙は膨脹しているが,その宇宙膨脹が低エントロピーを供給してくれている。最初の星が核融合反応をしつくしてしまうことなく核融合が途中で終わったために宇宙に大量の水素が残った。この宇宙膨脹による低エントロピーが,宇宙の進化,生物の進化をもたらした。進化はエントロピーが減少していく過程。「宇宙が…適切な速さで膨張を始めたこと…があらゆる種類の時間の流れの原因と考えられるのです。」p.196
 タイムマシンについても紹介。ワームホールタキオンは実在が確認されていないが,普通の物質でできた高速回転円筒によってもタイムマシンが構成できるんだという。原子核の密度くらいの巨大円筒を,軸周りに高速回転すると時空が引きずられて,円筒付近では何物も円筒の回転方向に逆らって運動することができなくなる。通常時間は未来にしか行けない一方通行,空間はどちらでも自由に行けるのだが,高速回転円筒の近傍ではこの時間と空間の性質が逆転。すなわち,空間を一方向にしか行けなくなるかわり,時間をどちらにでも進めるようになる
 勉強になる。でもいつもちょっと疑問に感じるのは,エントロピー増大の話で,ある巨視的状態がいくつの微視的状態で実現されてるか勘定するとこ。どういう微視的状態を特定の巨視的状態として観察するかは,すごく恣意的な話ではなかろうか。微視的状態としてはすべて区別がつくはずなのに。

『図解・ボーイング787vs.エアバスA380

 最新鋭の旅客機を紹介。ボーイングエアバスが,それぞれ経済性と大型化という異なる方向性を目指して開発。ここに至った歴史的経緯から,両者のスペック比較など詳しい。
 ボーイングは当初,先行していたエアバスA380が狙っていた大型化は避けて,高速性能重視の中型機を開発しようとしていたが,911によって旅客需要が激減する中で,高速化による運賃上昇は受け入れられないと断念。経済性重視の中型機に決定した。初めは7E7と呼んでいて,21世紀だし従来の名付け法にこだわることもあるまいと7E7のままにしようとしていたが,中国系航空会社のたっての希望もあって,787と命名したとか。八は末広がりだし(これは日本限定?),縁起がいいから。北京五輪も2008/8/8開会だった。
 ゲン担ぎはボーイング自身もやっている。ロールアウトの日程を,2007年7月8日にして(2007/8/7←y/d/m)それにこだわった。無理やり日程を守ったこともあって初飛行,型式証明取得が大幅に遅れてしまう。エアバスA380も遅れたが,787は三年も。
 A380は四発だけど,両端のエンジンは逆噴射できないんだとか。エンジンが大きく,取付位置も胴体から遠いため,一方が故障するとモーメントが大きくなりすぎる。着陸進入速度を抑えたので,内側二機の逆噴射でも十分停止できるようになっている。
 ボーイング787エアバスA380のほかに,ボーイング747-8とエアバスA350XWBも紹介。747-8は大型機747-400をもとに,二階デッキを後ろに伸ばすなどさらに大型化したもの。A350XWBは,経済性重視の中型機で,ボーイング787同様複合材料を多用して燃費向上。