1月の読書メモ(ファインマン)
『ご冗談でしょう、ファインマンさん』
- 作者: リチャード P.ファインマン,Richard P. Feynman,大貫昌子
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2000/01/14
- メディア: 文庫
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彼は原爆の開発に下っ端として関わった物理学者で,最後の大仕事は,チャレンジャー爆発事故の調査。本書は,彼が繰り返し語った十八番のエピソードを聞き書きで集めたもの。系列に沿って編集されていて,上巻は少年時代から,MIT,プリンストン,ロスアラモス,コーネル大学を経てカルテクに移るくらいまで。
いたずらが大好き。戦時中,家族との手紙が当然のように検閲されるのだが,パズルとか暗号みたいのを忍ばせて軍を閉口させる。物事に集中するととことん解明しなくては気が済まぬたちで,金庫破りなんかもマスター。超重要機密を取り扱うロスアラモスでも書類管理はけっこうずさんだったみたい。
偉大な物理学者たちとの出会いもおもしろおかしく書いている。プリンストンでの初めての研究発表では,アインシュタイン,パウリ,フォン・ノイマンといった巨人も聞きに来ると聞いてたまげるが,話し始めると没頭して難なくこなしてしまったとか。
ファインマンはオカルト嫌いだったようで,精神科医なんかも胡散臭いと毛嫌い。そのわりにはプリンストンが催眠術師を招いたときは実験台に立候補して,なんだか術をかけられてしまったりもしてる。
最初の妻が結核で亡くなった時,その時間で時計が止まっていたという出来事を経験する。自分がプレゼントし,何度も修理しつつも妻がずっと肌身離さなかったこの時計。超常現象!としたくなるのが人情だが,さすがは冷静に考察している。看護婦が時間を確かめるために時計を持ち上げて,そのまま止まってしまったのだろうと結論してる。
全体に後年の回想を書き取ったものであり,誇張や記憶違いも多いだろう。妻が亡くなったり,相当辛い思いや出来事もあったろうが,そういう雰囲気はあまり感じられず,実にポジティブ。彼が長い時間をかけて過去を再解釈してきたその結晶という感じを受けた。
どうでもいい話。ファインマンは臨界のことを「爆発」と言ってる。 「下から見たロスアラモス」。水が減速材になるから,硝酸ウラン溶液に形状規制,質量規制をかけなきゃならない。中性子吸収材のカドミウムを入れてもいい。濃縮をやってたオークリッジでは,当初かなり適当だったらしい。 武田教授はファインマンを典拠にすればよいのでは?でも科学的には「臨界」と区別しなきゃいけないのは当然だけど。
- 作者: リチャード P.ファインマン,Richard P. Feynman,大貫昌子
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トップレス・ショウをやるレストランを,法廷で弁護する話。面白い。ほかのなじみの客は,体面を気にして証言しないが,ファインマンは気にしない。地元紙に「キャルテク物理学教授、週六回トップレス・ダンスを鑑賞」とか書きたてられる(p.165)。奥さんは度量が広いな…。
科学を本当に理解するとはどういうことか,そのことを示す体験談には膝を打つ。現象の名前だけ知っていても,それは意味のある知識ではない。ファインマンは,それを科学者でもなんでもない父から教わったのだった。ブラジルの教育に喝を入れるとこなど,ファインマンらしくてとても良い。
文系学者や神学者を交えて大風呂敷を広げた会議。彼らが小難しいことを言ってても,実は内容が何もないことにファインマンは気付いて随分お怒り。「同じ馬鹿でも偉ぶった馬鹿ほど鼻持ちならないものはない。…普通のばかはいかさま師ではない。…だが不正直な馬鹿となると始末におえない。」p.184
州の教科書選定をやる話もなかなか。選定委員になるなり,教科書会社からの接待とかお中元?とかがきてこれにもうんざりしている。なんかどこの国も一緒だなあ。 さらに,酷い教科書をいっぱい読まされて閉口している。「この星の温度とあの星の温度を合計すると何度ですか?」みたいな設問を見て怒り心頭!「著者自身その主題の意味を理解していないのは、これで明らかだ。」p.202
ノーベル賞受賞に関しても,深夜の電話でたたき起こされたり,取材だ何だで面倒がいっぱい。辞退も考えたが,より面倒なことになると聞いて撤回したらしい。
日本語版Wikipediaを見たけど,ファインマンの項目って,ネタがほとんど『ご冗談でしょう、ファインマンさん』とその姉妹本ではないか?そんなのでいいのかしら。最近『ファインマンさんの流儀』という物理に重点を置いた本が出たそうなので,読んでみようかな。