3月の読書メモ(原発2)
『検証 福島原発事故・記者会見――東電・政府は何を隠したのか』
- 作者: 日隅一雄,木野龍逸
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2012/01/21
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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批判が当っている点もあるが,ちと責任を追及しすぎでないものねだりになってる感は否めない。定量的な議論は都合のいいところだけ登場。「海に意図的に放射性物質を流し汚染することは、生活も環境も破壊する最も避けねばならないことである。それにもかかわらず…」(p.117)と威勢がいいが,ではどうしろと?
書名の通り,記者会見の模様が綴られる個所が多いが,そこを読むと田中龍作氏,上杉隆氏,岩上安身氏などが実に有益な質問をして,政府や東電は返答に窮しているという雰囲気が伝わってくる。彼らが危険デマを振りまいてきたことは微塵も感じられない。
懺悔的記載を(ちょっとは)期待してたのだがほとんどなかった。わずかに,園田政務官が処理済みの汚染水を飲んだ件について,「飲む前に止めようという議論があった。しかし…その場に飲むように迫っていた中心的なフリージャーナリストがいなかったため、止めることができなかった。」(p.164) とあるのと,排除されたフリージャーナリストについてのフォローができなかったことを反省しているくらい。一冊の本なので,一貫性がないといけないということなんだろうけど。正義の人の話って眉に唾をつけて聞かないといけない。
- 作者: 大鹿靖明
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2012/01/28
- メディア: 単行本
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去年ニュース等で,リアルタイムで散発的に聞いた話がまとめて読めたのはなかなか有意義だった。著者はあとがきで,メルトダウンしていたのは炉心だけでなく,東電,経産省官僚,原発専門家,銀行,政治家,いずれもメルトダウンしていたと書いていて(p.349),そこを出発点に執筆したそうだ。
なので筆致はすごく批判的。だけど,関係者がみんな無能で保身しか考えてない最悪の人々だ,という単純な構造では全然ないと思う。原発に限らず,今まで多くの問題で政府や大企業が批判されて来たけれど,そういう単純な批判を繰り返すだけでは何にもならない。陰謀論を助長するだけ。
批判って後付けの部分が大きい。もちろん,全電源喪失の可能性を共産党が議会で指摘してたというのもあって,それにもかかわらず対応しなかったと言われるけど,たぶん他にもいろんな可能性が指摘されていて,そのすべてに対応しておくべきだったかはそれだけでは何とも言えない。
もちろん危険を伴う事業なんだから,緊張感をもって,適切にやってかなくてはいけないけど,志気の問題もある。あまり批判ばかりされすぎるとかえって逆効果かも。責任追及でなく,問題の把握とその解決が重要なのだから,もっと冷静に議論していく必要がある。時間がかかるかもしれないけど。
『新版 原子力の社会史 その日本的展開』
- 作者: 吉岡斉
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2011/10/07
- メディア: 単行本
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著者は東大理物出身。三十年来科学技術批判に取組んできただけあって業界に批判的。
長い通史なので,六つに時代区分。
1.戦時研究から禁止・休眠の時代(-53),
2.制度化と試行錯誤の時代(-65),
3.テイクオフと諸問題噴出の時代(-79),
4.安定成長と民営化の時代(-94),
5.事故・事件の続発と開発利用低迷の時代(-2010),
6.原子力開発利用斜陽化の時代(2011-)。
通産省と電力業界の連合が商業化以降を担当,科学技術庁が廃棄物処理や高速増殖炉などの研究段階を担当する体制でずっとやってきた。もんじゅや核融合など,実用化時期の「ハッブル的後退」もあり,科学技術庁グループが力を失って,科学技術庁解体の原因となったそうだ。なかなか思うようにはいかないな。実現すればすごく良い技術なのに。引っ込みをつけるのは難しい。