3月の読書メモ(歴史)

レーガン - いかにして「アメリカの偶像」となったか』

 生誕百周年の昨年出た評伝。中公新書は良質の評伝が多く,どれも読みごたえがあって外れが少ないが,本書も良かった。アメリカ大衆文化の変遷を体現した偉大な大統領
 戦後のアメリカ大統領で人々の記憶にもっとも残るのが,ケネディレーガン。二人ともアイルランド系だけど,対照的レーガンの父は6歳で孤児となり、レーガン自身もゼロからの出発を余儀なくされる。一方6歳年下のケネディは裕福な家庭に生まれ(父ジョセフは駐英大使),レーガンより20年も前に若き大統領となり,40年以上前に死ぬ。
 ケネディは暗殺されたが,レーガンは銃撃を受けながらも生き延びる。撃たれて死ななかった大統領はレーガンだけ。しかも70歳という高齢なのに順調に回復。元映画俳優の彼は,大統領職でも映画のように人々を魅了した。
 レーガンが社会に出たのはラジオのアナウンスの仕事から。話術を遺憾なく発揮して映画俳優に,そして戦後はテレビにも出演,その経験をカリフォルニア州知事,そして大統領として活かした。ハリウッドでは組合活動に取り組むも反共主義で,政治では「小さな政府」を目指す経済保守の立場を貫いた。
 彼が大統領のときに冷戦が終結,結果的には幸いだったけど,レーガン現実と空想を混同する傾向があったらしく,読んでてなんだか危なっかしかった。自分の推測・希望を裏打ちする情報を重視する楽天で,そういう方向への記憶の改変も目立っていたようだ。
 また信仰心も篤く,「ハルマゲドンが近づいている(核戦争の危機が迫っている)」と日記につけたり,チェルノブイリが「ニガヨモギ」を意味すると聞いて「この惨劇は二千年前に聖書に予言されていた」と言って側近を驚愕させたという。占星術好きのナンシー夫人の影響もいろいろ受けてるし…。

ピュリツァー賞 受賞写真 全記録』

ピュリツァー賞 受賞写真 全記録

ピュリツァー賞 受賞写真 全記録

 1942年から2011年までの写真部門受賞作品を収録。アメリカの新聞報道で使われた写真ということで,偏りもあるが,歴史的瞬間を見事に記録した写真が集まってて圧巻。
 94年受賞の「ハゲワシと少女」を始め,ショッキングで何度も引用される写真が多い。日本ではあまり取り上げられない残酷な場面を写した写真も。76年バンコクの左翼学生と右翼学生の抗争,80年リベリアのクーデタでの旧指導層の処刑,93年ソマリアで引き回される米兵の遺体,04年イラクでの米軍事会社社員の焼死体,など。もちろん,相当の危険を冒さなければこういった写真は撮れない。そこへあえて飛び込んでいくカメラマン。すごい。
 歴史的事件の写真だけでなく,レスキューの瞬間や日常風景を切り取った写真,オリンピックの写真なんかも。
 カメラ機材の変遷にも注目。初期の受賞作は,大きくて手間のかかる4×5スピードグラフィック。連写とかできないのにこれで決定的瞬間を撮るなんて…。次第に機動性が高い35ミリが増え,モータードライブで秒間十コマ撮影が可になり,デジタル化まで。カラー化が枝葉に見える進化。
 伝送技術の進展も,速報性に寄与した。昔は,フィルムの現物を運ばなくちゃならなかったんだから,大変だったんだな。カメラも通信技術も進歩して,ますます印象的な写真が,迅速に届けられるようになった。今年のピュリツァー賞では,東日本大震災の写真の受賞があるんだろうか?