1月の読書メモ(経済)

『日本人がグローバル資本主義を生き抜くための経済学入門』

日本人がグローバル資本主義を生き抜くための経済学入門 もう代案はありません

日本人がグローバル資本主義を生き抜くための経済学入門 もう代案はありません

 この人は本当に文章が上手い。学者ではなく金融機関のサラリーマンだが,経済学者の書いた本よりずっと理解しやすい。
 内容は怪しいけど理解した気にさせてくれる,わけではなく,今まで触れた雑多な経済知識をうまくまとめてくれている感じで,結構信頼できると思う。立場的には,新自由主義で,なるべく規制をなくして自由経済を追及することが好ましいとしている。読んでいてなかなか説得力がある。
 本書は,経済学の細かい理論的説明はなるべく省いて,現実の経済活動に関係する話を中心にまとめたもの。特にオリジナルの説が乗っているわけではない。導入部は,ライブドア事件村上ファンド事件,マドフの6兆円ねずみ講詐欺など,インパクトの大きい最近の経済スキャンダルを取り上げて興味を引く。
 第二章から,経済学の基礎を要領よく紹介。最後に今後の日本経済への提言。税制改革,年金の清算,解雇自由化,農業自由化,道州制,教育バウチャーなど。勿論完全自由ではなくて,市場が適正に働くよう,独占排除,外部不経済の回避,公共財の提供,情報の非対称性是正には政府が関与すべしとする。

『リスクの正体!』

リスクの正体!-賢いリスクとのつきあい方 (木星叢書)

リスクの正体!-賢いリスクとのつきあい方 (木星叢書)

 リスクコミュニケーションの本かと期待したけど,リスクについてのエッセイ集といった感じ。経営学(経済学?)を専門とする著者のブログを元にした本ということで,まあそんなとこかな。
 でも一応構成は工夫されてて,客観リスクと主観リスクの区別みたいな話から始まる。主観リスクは「どんだけ怖いか」。主観的なバイアスが大きく入り込んでいて,被害の規模が大きかったり,コントロール可能性が少なかったり,現象が未知だったりするリスクは,過剰評価される。
 将来のリスクと密接に関わる「予測」についても。通常の「探索的予測」のほかに,政府の経済予測などの「規範的予測」がある。予測の主体が結果に影響を与えうる場合で,「どうなるか」でなく「将来どうしたいか」という目標を示すのが「規範的予測」。
 著者の専門はリアルオプションというものらしく,それについて一章。でも事例を挙げてものすごく噛み砕いて基礎を説明。意思決定を遅らせることでリスクに柔軟に対処することを指すが,その時間を確保するにもコストはかかる。単に待てばいいのではなく,その時間も有効利用しなくては。
予測市場」というのは初めて知った。郵政選挙のときに行なわれた「総選挙はてな」というのが国内初の選挙予測市場公職選挙法で開票前の「人気投票」の結果公表は禁じられているが,予測市場自分の希望に投票するのではなく結果を予測するものなので別物,という見解が詳しく述べられる。
 ところどころに進化心理学的な話も。「予測」は生存に有利なため発達してきたとか。リスクをとることに楽しみを感じるのもそういう説明が可能。不確実性の高い状況ではリスク回避的になるが,不確実性の低い状況ではリスクを取ることが好まれる。その個人差が社会を変える原動力なのかも。

『ユーロ・リスク』

ユーロ・リスク 日経プレミアシリーズ

ユーロ・リスク 日経プレミアシリーズ

 アイルランドに端を発し,ギリシャで深刻化した欧州財政危機。17のユーロ導入国を破綻のリスクに応じて高中低にグループ分け。それぞれの事情を解説し,ユーロという通貨自体の抱えるリスクも論じてる。
 各国の政府債務残高と純対外資産残高の二つの基準(ともにGDP比)から,財政危機のリスクを評価。高リスクグループのギリシャアイルランドポルトガル・スペイン,中リスクグループの代表イタリアとベルギー,ドイツ・フランスをはじめとする低リスクグループ六か国の状況を紹介。
 危機的状況の高リスクグループを低リスクグループが支える構図で,ドイツやフランスには大きな負担がかかる。これを機にギリシャやドイツがユーロ離脱するかどうかについて考察していて,結論は否定的為替相場を変動させるとドラクマ安で債務返済は困難になり,マルク高で輸出が厳しくなる。
 財政危機を回避するためのメカニズムもいろいろ検討されており,結局,ユーロは何とかうまくやっていくだろう,という楽観的な評価だった。そうだといいけど。この本が書かれてからも状況はめまぐるしく変わってるんだろうが,大丈夫なのかな。