1月の読書メモ(放射能)

『福島 嘘と真実』

福島 嘘と真実―東日本放射線衛生調査からの報告 (高田純の放射線防護学入門シリーズ)

福島 嘘と真実―東日本放射線衛生調査からの報告 (高田純の放射線防護学入門シリーズ)

 放射線防護の専門家である著者が,2011年4月6日から5日間にわたって行なった,東日本を縦断する放射線調査の結果をまとめている。札幌ー青森ー仙台ー福島ー東京。
 結論としては,今回の事故による放射能汚染で,健康への影響が懸念されることはないということ。チェルノブイリや他の核災害事例との比較,実測データを基にした考察で説得力がある。政府の対応への論難,除染の方法の提言なども。
 福島では,福一正門前での計測も含めて,3日間でわずか0.1mSvの被曝だったそうだ。プルトニウムの空中飛散もなく,用意していたマスクや防護衣も不要だったという。原発から20km圏内では,置き去りにされた家畜が餓死したが,チェルノブイリでも家畜避難はなされたという。政府の不手際。
 巻末に,調査旅行を終えた直後に新宿医師会で行なった講演会の内容(含む質疑応答)と,過去の著作から再録した世界の核災害(チェルノブイリ,スリーマイル,東海村,広島,ビキニ,楼蘭周辺)の概要を収録。楼蘭では合計22メガトンの地上核実験が行なわれ,中でも地表核実験では,大量の砂を巻き上げた大爆発により,広範囲に汚染された「核の砂」をまき散らした。チェルノブイリの比ではない。日本にも飛んできているらしい。

『中国の核実験』

 1960年代から楼蘭付近で行なわれた核実験。その総出力は20メガトン。うち8.5メガトンは地表核爆発で,大量の「核の砂」を撒き散らした。情報が公開されておらず詳細は不明だが,多くの人的被害が出ていると推定されるという。
 放射線防護が専門の著者は,隣国カザフスタンでの調査から,19万人が急性放射線障害で死亡したと結論。これが事実ならすごいことだ。特に被害を広げたのは,核爆発により作られる火球が地表に接する地表核爆発実験放射性物質が大量に混じった土壌を巻き上げ,それが広い範囲にばらまかれる。
 アメリカやソ連も大規模な大気圏内核実験をしたが,海上であり,内陸でメガトン級の核実験をやったのは中国だけだという。安全を確保する措置がきちんと取られていた可能性は少なく,住民の避難や治療についてケアがあったのかも不明。安全管理がちゃんとなされていたなら公表すべきと著者は言っている。確かにそうかも知れない。

『核の砂漠とシルクロード観光のリスク』

 1980年のNHK特集「シルクロード」が呼び込んだ日本観光客が核のリスクにさらされたと告発する本。『中国の核実験』の一年後に出ているが,比較的冷静だった前著に比べかなり筆致が激しい。ちょっと引いちゃうくらい。
 NHKは核実験の事実を知っていたにもかかわらず,それを隠蔽したと主張している。中国政府のお仕着せの取材行で,真実は伏せられた。「犯罪番組」「NHKは中国が輸出するプルトニウム入りの毒餃子を販売しているような組織である。」p.61
 さすがにちょっとうさんくさくなってきた。シルクロードへ行って,健康被害が出たと思われる人を絶賛募集中らしい…。
著者の主催するサイトを見たら,げんなり。左翼崩れの右翼?少なくとも上品とは言えない。
 日本シルクロード科学倶楽部 http://junta21.blog.ocn.ne.jp/
 ただ,中国が過去の核実験について情報を公開していないのは確かなようで,まったく被害が出なかったいうことも考えにくい。著者とは独立で何か信頼ある科学的調査をしている人はいないんだろうか。1998年のBBCの番組もなんだか微妙。
 文化大革命時代に,そんなに人命尊重しつつ核実験をやったというわけでもなさそうだが…。核爆発直後に解放軍の兵士を爆心地に突入させるということもやっているとかいないとか。判断の材料に乏しくて何とも。