12月の読書メモ(その他)

万里の長城は月から見えるの?

万里の長城は月から見えるの?

「月から(あるいは宇宙から)万里の長城が(肉眼で)見える」という都市伝説を検証した本。結局はうそっぱちなのだが,多くの文献を渉猟して,なぜそんな話が生れたのかまで考察する。
 中国の宇宙開発で2003年に初の有人飛行をやったとき,帰還した飛行士が「長城見えなかったよ」と言って騒動になったらしい。日本ではあまり知られていないが,中国では国民的議論になったという。なんせ,教科書にも「万里の長城宇宙から見える」旨の記述があって,それを削除すべきかで侃々諤々。
 たまたまその宇宙飛行士が運悪く見えなかったのではなくて,幅10メートルの長城が高度300kmの上空から見えないであろうことは,過去に何度も指摘されてきた。3km先から10cmの物を見るのと同じだから,双眼鏡でもない限りちょっと無理だろう。38万km遠くの月からなんて絶対無理だ。
 ではなぜそんなガセネタが広まったのか?結局18世紀西洋のオリエンタル趣味から,万里の長城のすごさに尾鰭がついて,当初は修辞的形容だった「月の人にも見える」がどんどん変容していった。宇宙時代が来て,アポロ以降には「アームストロングが見えたと言ってた」までエスカレート。
 もう百年も前から,科学者等によって否定がなされてきたが,なかなか普及せずこの都市伝説は生き残ってきた。2006年のNHK番組「探検ロマン世界遺産」でも放映されたとの由。結局,突飛でオモシロイ言説が根拠なしに信じられ,それに水を差す科学的意見は無視されるという,まあ都市伝説の都市伝説たるゆえんの作用が生み出したお話ということ。ちょっと前にQWERTY配列についてもそんな話を読んだな。
 中国のすごいとこは,「アメリカ人が言い出したうそっぱち長城伝説に,我が国の宇宙飛行士が終止符を打った」と得意気なとこ。国威発揚に散々使っておきながら…。月へ行ったアメリカの宇宙飛行士たちは,一貫して明確に否定してたのに,いい面の皮だよな。

国マニア―世界の珍国、奇妙な地域へ!

国マニア―世界の珍国、奇妙な地域へ!

 知られざる国家の数々を,マニアックに紹介。きっちり一国4ページ。どうしようもなく小さい国,領土さえない国,めちゃくちゃ入り組んだ飛び地,はかなく消滅した国,人種差別のための国…。
 なんでそんなヘンテコな国がなぜできたのか?みたいな経緯もしっかり書かれている。極小国家には,切手の発行が重要な収入源になっているとこも多いらしい。もちろん発行は他国に委託してたりして,なんか知財な商売だな…。あとはタックスヘイブンとか。
 著者はさいたま市議会議員で,ネット上に「消滅した国々」とか「世界飛び地領土研究会」とか公開している。面白い人だなあ。

小説フランス革命 1 革命のライオン (集英社文庫)

小説フランス革命 1 革命のライオン (集英社文庫)

 解説の池上彰が意外。第一巻は,財政難のフランスが特権身分への課税を模索するため全国三部会を召集,ネッケルが財務大臣に返り咲くあたりから,国民会議成立までの一年弱だが,解説では,フランス革命全般のことが書いてある。
 小説はやはり人物の特徴を思い切って描いているのですんなり頭に入ってくるな。ミラボーが中心で,ロベスピエールも主人公格。デムーランやシェイエスタレイランなども登場して,ワクワクする。この年になると,歴史小説って,流れを知ったうえで楽しむものという感じ。