12月の読書メモ(医療・科学)

進化から見た病気―「ダーウィン医学」のすすめ (ブルーバックス)

進化から見た病気―「ダーウィン医学」のすすめ (ブルーバックス)

 ダーウィン医学の紹介本。著者は医師ではないし,なんか怪しい雰囲気…と思って読んでたら,そうでもなかった。人間の進化の過程で倫理や道徳,感情などができてきたという,進化倫理学進化心理学とおんなじ発想
 現在の人間の健康や,病気といわれる現象も,進化の発想で把握していくといろいろためになるかな,という話。Nスペで,近年アレルギーや腰痛,免疫を進化で説明するというのが放映されてたが,あれのことか。具体的にどう臨床に生かすのかとかはよくわからなかったけど。
 医療には対症療法と原因療法があるけど,対症療法的なことは,人間の身体に備わってたりもする。ひどい痛みが続くときにエンドルフィンやエンケファリンが脳内で分泌されて,鎮痛作用をもたらすとか。こういう働きは,進化によってできたという説明が成り立つ。
 感染症と戦う免疫のシステムも,進化の賜物。ただ,戦う準備ができるのに数日かかり致命的になることも。そこを補充するワクチンが見つかったのは僥倖。今は感染症抗生物質や抗ウィルス薬で対応することもあるが,細菌などの進化は速く,耐性菌の問題が出てくる。なるべくなら使わないのが吉かも。
 社会の変化は人間の進化よりずっと速くてめまぐるしい。そのために生じてきた疾患も多い。飢餓への備えが飽食の時代には糖尿病などの生活習慣病。糖分の発酵でできるアルコールに人間が惹かれるのは,食物のありかを探すのに有用だったからだが,今はアル中が問題に。
 鬱などの精神疾患も含め,疾患は結構進化と結び付けて説明できるらしい。高緯度地方に住んできた白人が,オーストラリア北部など低緯度地方で暮らすと,強い日射のため皮膚癌などにかかりやすく,逆だと日射が弱すぎてビタミンD欠乏症になる。
 世界には自然放射線のレベルが高いとこがあるが,そこにいる人が平気なのは,長年そこで暮らしてきたからなのかも。ってのはこの本(2009年発行)には書いてないけど,聞いたことある。あれはダーウィン医学的説明なのか。
 寄生虫や腸内細菌との共生関係も見直されているそう。長年寄り添ってともに進化してきたのだから,むやみに駆除するとかえってよくないかもしれないとか。最後に,寿命というものも,子孫に資源を残し,良い環境を残すためにできたのかもしれないと述べて結び。

民間療法のウソとホント (文春新書)

民間療法のウソとホント (文春新書)

 著者は健康雑誌『壮快』の元編集長。「紅茶キノコ」ブームの火付け役を果たしたらしいが,その後の健康雑誌の暴走は苦々しく思ったりしたみたい。ただ全体として,代替医療や健康食品に好意的な感じを受けた。
 いろいろと論文を参照したりしているが,通常医療への不信感が見え隠れして,正当な評価ができているような感じでもない。PubMedへの言及もあるが,主に日本語雑誌の論文を見ている感じ。英語読めないのかな?新書を書くレベルではないような気もするが,健康雑誌編集者ってこの程度なのかな。
 アガリクス,AHCC,サメ軟骨,プロポリス,プロバイオティクス,漢方薬アロマセラピー鍼灸についてその効果のほどを検討しているが,可能性があって害がなければOKというスタンスで,ちょっと疑問も。プラセボ効果だけだとしても効果があるならよしとする。このへんはちょっと感覚が違うな。

準結晶の不思議な構造―アルスの森を散歩して

準結晶の不思議な構造―アルスの森を散歩して

 去年のノーベル化学賞に輝いた準結晶。ちょっと勉強してみようと思ったら,手ごわかった。準結晶幾何学についてはなんとかついていけそうだったが,回折像の話になると難…。
 実際の準結晶には二次元準結晶と三次元準結晶があるらしいが,基礎編では分かりやすい一次元準結晶から説き起こされる。準結晶周期性はないのだが規則性のある構造。一次元の結晶はたとえば
LSLSLSLSLS…のように周期的な配列が続くが,準結晶にはこういう周期性がない。
 たとえば,以下のようなフィボナッチ配列は一次元準結晶に相当する。
この配列の作り方は,
S
L
LS
LSL
LSLLS
LSLLSLSL
LSLLSLSLLSLLS
のようになる。 つまり,現在の配列の直後に前の配列を付け足すことで,次の配列を得ている。
 これが結晶なら,現在の配列の直後に現在の配列を付け足すことで次の配列を得る。一種類の同じ配列が繰り返し現れるから,これで周期的になる。
 フィボナッチ配列では,同じ配列が繰り返し現れることがない。しかし,著しい規則性がある。配列はフラクタルのような自己相似構造をなし,LとSの出現比率が黄金比に漸近するなど,非常に興味深い。この一次元準結晶は,二次元の正方格子を,傾き黄金比の直線状に投影することでも得られる(直線から一定の距離内の格子点のみ投影)。無理数なので周期性が現れないのは納得。
 二次元準結晶,三次元準結晶はこの拡張になっている。二次元準結晶はいわゆるペンローズタイルに代表されるが,五次元の超立方格子を,平面に投影して得られるそうだ。三次元準結晶は,六次元の超立方格子を,三次元空間に投影して得られる。
 二次元準結晶は五回対称か十回対称。二種の菱形で平面を非周期的に覆い尽くすペンローズタイルがこれになる。三次元準結晶は二十面体対称。二種の菱形六面体で空間を非周期的に覆い尽くすとこれになる。どちらも黄金比と深い関係がある。
 でもこの本はちょっとレベルが高くて消化不良。また別のを読んでみようかな。ノーベル賞効果で,一般向けに分かりやすいのが出てるかもしれないし…。