11月の読書メモ(原発)

内部被曝の真実 (幻冬舎新書)

内部被曝の真実 (幻冬舎新書)

「私は満身の怒りを表明します」7月27日に衆議院厚生労働委員会で発言して,一躍有名になった児玉教授の著書。福島の線量が高い地域での検査,除染の必要性を説く。急いで出したためか,新書にしてもかなり薄い。
 衆議院での全発言と添付資料,その後のCS放送「ニュースにだまされるな!」のやりとりを収録。それとチェルノブイリ後の甲状腺癌,膀胱炎について。薄い本なのに重複も多く,『内部被曝の真実』というタイトルとは相違して,内部被曝の詳細については特に目新しいことはなかった。専門ではないようだから仕方がないが。
 児玉先生は放射線の害についてやや過敏。それはいいのだが,それにしてもちょっと誤解を招きそうな表現があって気になった。エビデンスが揃うのを待っていたら対策が遅れるとし,医療従事者は「軽微な変化を多数みるのではなく、極端な現象に注意」すべしと述べる(p.83)。「極端な症例こそが最も重要な警報」ということなのだが,どんな体調悪化も反射的に放射能の影響だと決めつけてしまう一部の人たちに,曲解されてしまわないだろうか。

福島の原発事故をめぐって―― いくつか学び考えたこと

福島の原発事故をめぐって―― いくつか学び考えたこと

 略歴には載ってないが,著者は東大全共闘の元議長。当然原発を批判する。まず原発導入の経緯を概観。岸信介をはじめとする戦後日本の支配層が潜在的核兵器保有国となり国際的発言力を高めるという倒錯した論理で推進したと総括し,糾弾。
 著者は物理学をやっていて,科学史に関する著書もある。近代社会の最大の発明は科学技術,というのが持論らしく,その科学技術は核エネルギーの解放をもって破綻へ突き進んでいると論じる。科学技術とは,単に科学と技術ではなくて,科学理論という客観的法則の生産実践への意識的適用としての技術。
 なるほど用語が微妙にマルクス的かも。 技術は当初理論に先駆けて発達してきたが,原子力に至って完全に逆転。原爆は百パーセント学者の頭脳のみから導き出され,原発はその副産物として得られた。ここにはじめて科学理論に領導された純粋な科学技術が生まれたことになる。
 しかしその科学技術の成立には巨大な権力が必要不可欠だった。人間に許された限界を超えた暴走が,怪物的権力によって引き起こされてしまった。福島の惨状も,政官財一体となった権力が何の掣肘も受けずに突っ走った結果。そして本書は次の一文で結ばれる。
「こうなった以上は、世界中がフクシマの教訓を共有すべく、事故の経過と責任を包み隠さず明らかにし、そのうえで、率先して脱原発社会、脱原爆社会を宣言し、そのモデルを世界に示すべきであろう。」 権力というものがなくなると,確かに原発なんかの大規模な科学技術は不可能になるんだろうが…。

原発・放射能 子どもが危ない (文春新書)

原発・放射能 子どもが危ない (文春新書)

 かなり残念な本。小出氏は京大原子炉実験所の助教。不遇の専門家で反原発ということで原発事故後一躍有名になった人だが,専門的な知見を活かした記述はほぼ皆無。ひたすら放射線の恐怖を煽るような内容になっている。世の中が彼にそういう役割を与えているのだから,仕方がないのだろうか。第一章のタイトルが「何があっても子どもたちを守らなくてはいけない」で,0歳児は1Svの被ばくで1万人中1万5千人以上死ぬというグラフを掲げている。1万人・Svあたりの癌死者数の年齢依存性を表すp.25のグラフ。これは集団線量という誤解を招く指標による議論で,あまり有益とは思えない。
 もう一人の著者黒部氏は,小児科医ということだが,かなり怪しい感じだ。放射線の種類について説明するとして,「放射線にはα(アルファ)線、β(ベータ)線、中性子線、宇宙線、X線があります。」(p.53)って,宇宙線だけ異質。もっとやばいのは,「『1mSvの被曝』というのは、放射線が体内の60兆個あるすべての細胞の核を通過するだけの線量です。」と断言しているとこ(pp.42-43)。矢ケ崎克馬氏や崎山比早子氏もそんなこと言ってたらしいけど,根拠が不明。
 当然,内部被曝の危険も強調している。小出氏の持論は結構柔軟的?で,子供は汚染の少ないもの,年寄りは汚染の高いものを食うべしとする。農業を守るために風評被害に配慮しているみたいで,なんか悲壮感漂う記述。そんなに汚染されたのが出回ってるわけでもないだろうに…。
 第五章にQ&Aがあるが,悲観的すぎて役に立たない。「放射能が怖いので、東京から引っ越そうと思っているのですが、どこが安全でしょうか?」に対して,「残念ながら今、安全といえる場所はありません。福島からの死の灰が、国内はもちろん世界中にばらまかれてしまったのです。」(p.158)というのは何なのだろう?また,「子どもが鼻血を出すので心配です。」という質問が立てられているのはものすごく不誠実(p.150)。不可解にも,質問にも回答にも放射線のことは出てこないのだが,低線量被曝で鼻血が出ることをはっきりと否定すべきだろう。被曝を恐れている人がこの本を読んでも,いたずらに不安を掻き立てられるだけで得るものはないと思う。