10月の読書メモ(その他)

ロシア 苦悩する大国、多極化する世界 (アスキー新書)

ロシア 苦悩する大国、多極化する世界 (アスキー新書)

 近年のロシアを巡る国際情勢を概観する上でためになる本。 シノドスジャーナルやウェッジ・インフィニティの連載をもとに,最新の事情を加筆してある。
 冷戦終了後も,旧ソ連諸国への影響力を失いたくないロシアと,西側諸国の対立は解消されなかった。ただ,イデオロギーが抜きになった分,緊張はだいぶ緩和プーチン政権誕生後,911で国際社会がテロとの戦いを錦旗とするに至って,チェチェン問題等を抱えるロシアも大手を振って分離独立運動を封じ込めていけるようになる。ここで一時米ロ関係は好転するが,一極的世界を追求する米と多極化を求めるロシアとの路線はやはり対立。2002年からグルジアウクライナで親米的な色革命が起こり,NATOのMD配備問題等もあり,米ロ新冷戦の様相を呈する。
 しかし,イデオロギーの衰退のほか,進行した経済的結びつきもあって,かつてのような対立は抑止されている。欧州はロシアから天然ガスを輸入しているが,逆に欧州も天然ガスで急成長したロシアにとって生命線。中国はまだ大量のガスを高くは買ってくれない。
 ロシアは旧ソ連諸国を「近い外国」として重視。欧米への接近を警戒している。それと,これら「近い外国」には,未承認国家問題を抱えるところが多い。民族自決」と「領土保全」という矛盾する原則をどう扱うか,難題だ。チェチェン問題の存在にもかかわらず,ロシアはグルジアの未承認国家アブハジア南オセチアを国家承認している。これはコソヴォの独立を欧米諸国が支援したことへの対抗策で,2008年「グルジア紛争」の主要因の一つにもなっている。
 ウィキリークス問題の波紋も興味深い。米外交公電が暴露されたことで,ロシアの米国,NATOに対する不信感が増した。また米国によるウィキリークスへの弾圧を,ロシアが言論の自由の侵害だと批判。ロシアの方が露骨な言論弾圧をしているのだが,「内政問題」との逃げ道を確保。
 今年は世界各地で暴動が起こって騒がれたが,ロシアでも民族問題にからむ暴動は多い。プーチンはじめロシア政権は,民族主義を自らの権力強化の手段として利用してきたが,それが裏目出てきている。
 巻末には追補として,311の震災に対するロシアの対応等がまとめられている。アルメニア原発問題にも触れる。アルメニア地震国で,危険な原発を抱えている(格納容器がない型)。欧州が運転停止を求めているが,代替電源がなく難しいようだ。事故がおきないといいが…。

下流の宴

下流の宴

 こないだやっていたNHKのドラマを観て,原作を読んでみた。中流家庭の専業主婦が,プレッシャーで息子をつぶしちゃう話。
 やはりドラマは美化がだいぶ入ってる。ドラマは中流にしては家が豪勢だったし,主婦も黒木瞳だったから小説の印象とだいぶ違う。息子の同棲相手も然り。
 ストーリーはドラマの方がよりドラマチックに脚色されていておもしろかったかな。小説は,受験勉強を指導してくれる先生がなんだかややこしい人間関係のツテの果てに出てくる感じだが,ドラマでは主婦の幼なじみということになっていて,この二人の関係もうまく描かれていた。
 妻は,小説に描かれた受験勉強の秘訣がなかなか真に迫ってると言って,いたく感心してた。

公安は誰をマークしているか (新潮新書)

公安は誰をマークしているか (新潮新書)

 公安警察,特に警視庁公安部(総勢1100名)の組織と業務内容を紹介。このほか都内の警察署には警備・公安担当の捜査員が1200名もいるらしい。
 警視庁公安部は,公安総務課,公安一〜四課,外事一〜三課,公安機動捜査隊をもつ。警視庁の中の組織にも関わらず,予算や指揮権は警察庁警備局が握っている。他の道府県の警備部公安課も同様に,各警察本部でなく警察庁からダイレクトに指示を受けて動く。
 公安警察は,戦前の特高警察の系譜にある。敗戦後,一時解体された特高だが,共産主義勢力の台頭に対抗する逆コースの流れの中,昭和27年に現在の警視庁公安部に当たる組織として復活する。当初の監視対象は戦後も暴力革命路線を堅持していた日本共産党で,現在も公安総務部が共産党を担当
 公安総務部は他にも統一教会やパナウェーブ等の新興宗教団体,グリーンピース等の過激な環境団体も対象にしている。また,産業界の内部や官公庁内に隠れる共産党シンパもウォッチしてきた。場合によっては身内であるはずの警察官も監視の対象になる。
 公安一課は,革マル以外の左翼過激派,公安二課が革マルを主に担当。戦後の一時期,一世を風靡した新左翼も,最近では大学構内での若手獲得(オルグ)も難しくなり高齢化している。平成に入ってからもテロ・ゲリラは発生しているが,やはり先細り感は否めない。新左翼については,以前ブログに概要をまとめた。中でも公安二課が対象とする革マルは,特に盗聴に長けていて,偽造した警察手帳で警官になりすまし,無線を傍受して警察活動を丸裸にして警察を逆に監視していた(平成十年の浦安アジトショック)。
 公安三課は右翼を担当右翼団体の情報を得るために,幹部と食事や酒をともにするなど,相手との人間関係を良好にしている捜査員もいる,というのが公安三課独自の特徴。最近では組織としての活動実態に乏しい潜在右翼なども時々暴発する。それを未然に防ぐ捜査はかなり難しい。
 外事二課はパキスタン以東のアジア諸国,外事一課はそれ以外の国々のスパイを担当。身寄りがない日本人になりすます「背乗り」などでスパイは情報を収集するが,それを摘発することを最大の任務とする。外交官の不逮捕特権によって捜査が阻まれることも。不正輸出にも目を光らす。外事三課は国際テロ組織を捜査対象にする。日本に潜伏するテロリストや,国内で起きる国際テロ組織による事件を担当。
 公安警察の活動は,隠密を旨とするなどあまり表に出てこないもので,時々行き過ぎも起こる。国民が関心を持って公安の活動をチェックすることが望ましいと著者は言う。