10月の読書メモ(技術)

風力発電の不都合な真実―風力発電は本当に環境に優しいのか?

風力発電の不都合な真実―風力発電は本当に環境に優しいのか?

 風力発電ダメじゃんって本。著者は歯科医で,野鳥愛好家。風力発電に期待しつつ十年もウォッチしてきて,そのダメさ加減に怒り心頭の様子。
 風力発電というと,すごくエコなイメージがある。でもCO2削減にはまったく結びついておらず,逆に騒音や環境破壊などの悪影響が多く,近い将来に到底うまくいく見込みはないそうだ。民間業者の発電実績は公開されておらず,自治体のデータが入手できるのみだそうだがそれでもヒドイもの。
 風力発電は現状補助金漬け産業らしい。建設費を多めに見積もって申請し,ノーチェックで補助金が出て,建設するものの,故障が多くろくに稼働しない風車も多い。ノーチェックで補助金というのはいかにもありそうな話だな…。
 故障がなくても,風力発電は風まかせで,発電しない時間が長い。発電量は風速の3乗に比例するから,風速が半分になると発電は8分の1に。それなのに定格出力の記載は,かなりの強さの風が持続的に吹いている場合の値。設計を上回る風が吹くと危ないので風車は止まる。
 発電量の変動が激しい風力発電は,電力系統に悪影響を及ぼすので,風力で発電できている時にその分の火力発電を減らせるわけでもない。これ以上風力発電が増えてくると,それを高額で買い取らなくてはならない電力会社は大変。系統安定のために,接続を遮断しなくてはならないことも。
 低周波騒音や,野鳥のバードストライク,太陽光がさえぎられることによるストロボ効果など,周辺住民の蒙る被害も大きい。それなのに風力発電事業には,住民の同意は不要とされている。説明会は必須だが,全員反対でも解決策を示すことで強行できる。アリバイ説明会が申し訳程度に開かれる。
 著者は少し筆が滑り気味なところもあるが,風力発電の現状はこんなところというので大体は合ってるんじゃないかな。微妙な記述としては,事実を確かめない行政として非実在超高齢者の例など挙げて「事実を確認しないで公務を執行した場合には、厳しい罰則を科す必要があります」(p.206)なんてとこ。行政のマンパワーの問題もあるし,違法でなければ書類だけで決裁しちゃうなんてあってしょうがないとこはある。それが問題であれば,しかるべき制度的な手当てをしなくてはならないんじゃないかしらん。

「想定外」を想定せよ!  失敗学からの提言

「想定外」を想定せよ! 失敗学からの提言

 起きてしまった失敗を次に活かすための学問「失敗学」を提唱する著者が,今次震災に際し,対処法を考える。現地調査も行ない,被災地のカラー写真も何点か収録。
 人は見たくないものは見ないし,考えたくないことは考えない。そのために発生頻度が少ないことは起こらないとしてしまいがち。だから「想定」は甘くなりがちで,いざ「想定外」のことが起こると対処できずに途方に暮れてしまう。
「想定」の範囲を決めるにも,起こりうることは起こる,ということを念頭にする必要がある。その上で,「想定外」にも対応できるような的確な判断も求められる。うまくいった「想定」はニュースにならず,なかなか記憶に残らないが,そういう成功例にも目を止めなくてはいけない。例えば,中越地震では走行中の新幹線が初めて脱線したが,この程度で済んだのは,阪神大震災の教訓に学んで補強工事等を済ませていたから。マスコミは失敗が起こるとそれに注目して大きく報道するが,本来はこういう事例にもしっかりと光を当てていくことが望ましい。
 報道等によって大きな災害や失敗は記憶されるが,それがいつまでも持続するものではない。個人の場合は規模によって3日,3月,3年程度で忘れられ,組織では30年,地域や社会でも300年もすれば忘れさられてしまう。失敗はそもそも伝わりにくく風化やすいという特性もある。
 著者はそういう失敗の特性をふまえて対応を考えることが有益ということだが,なんだか抽象的で具体的な対処法はあまり提言されていなかった。「現地・現物・現人」として,現地に赴き,事故にまつわる現物を見て,体験した人に話を聞く,これが基本と強調するが,万人にできるものでもない。
 それに本書は以前刊行されていた本を下敷きに,震災の分を追加して作られた本らしく,ところどころつぎはぎな印象。例えば「本質安全」と「制御安全」の話は,回転ドア事故には似つかわしくても震災・津波とは関連も薄く,浮いた感じがした。ちなみに原発事故の話は触れられてなかった。残念。