9月の読書メモ(科学)

宇宙は本当にひとつなのか―最新宇宙論入門 (ブルーバックス)

宇宙は本当にひとつなのか―最新宇宙論入門 (ブルーバックス)

 宇宙論を分かりやすく解説してくれるのって村山さんの右に出る人はなかなかいないと思う。東大国際高等研究所数物連携宇宙機構(IPMU)の初代機構長。
 宇宙は何でできているのか?というのは人類長年の問いだが,2003年ごろに大きなパラダイムシフトがあったらしい。原子は宇宙のほんの5%でしかなく,残りは暗黒物質や暗黒エネルギーという正体不明のモノということがはっきりしてきた。そのあたりの事情を手際よく紹介してくれる。
 科学はたいていそうだけど,観測と理論が互いに支え合って今の宇宙論ができてきた。本当に信じられないくらい多くのことが分かってきている。これを完全に理解できる人はほとんどいないけど,概要くらいはなぞっておかない手はない。…なんていろいろ読んでる。
 一時期,暗黒物質の候補だったニュートリノ。これをとらえるスーパーカミオカンデは,すごく精巧なもの。大量の水を蓄えるが,微量のウランやトリウムも混ざっていてはノイズになるので,一兆分の一くらいまで綺麗にしないとというのは驚き。デリケートなので水溜めるのも何ヶ月もかかる。
 すばる望遠鏡もすごい。直径8メートルの鏡は,ハワイ島の大きさに拡大しても紙一枚の厚さ程度の凹凸しかないらしい!銀河を撮影するには長い露出が必要で,その間追尾するため鏡を傾ける。鏡自体の重さでゆがむのを防ぐため,261本のアクチュエータが補正をしている。
 加速器もすごい。CERNの大型ハドロン衝突型加速器LHC)とか。観測機器や実験装置の進歩が,理論の構築を助けてきた。逆にそうしてできた理論から予測される現象を観測・実験して確かめるべく新たな装置が開発される。まさに相補的関係。
 暗黒物質は異次元から来たという説もあるらしい。暗黒物質は,我々から見えない次元を走っているので止まってるみたいに見える。でも動いてるので,運動エネルギーをもっていて,それが質量として観測される。うーん,なるほどー!
 暗黒物質については,もう十年もすると正体がわかるのではないかということ。一方暗黒エネルギーは難しい。宇宙は膨張しているが,それは加速膨張。そのためには,宇宙が広がるのに伴ってそれを補うエネルギーが必要になる。それが暗黒エネルギー。アインシュタイン方程式の宇宙項の再来だ。
 もし暗黒エネルギーの産生が膨張速度より速いと,加速がどんどん進んで無限大になる。すると銀河も星も原子もバラバラに引き裂かれて終る。ビッグリップだ。もし膨張速度が一定範囲内なら,膨張が永遠に続く。昔は宇宙が一点まで縮むビッグクランチという終末も考えられてたが,それはない。
 重力だけが電磁力や核力と較べて圧倒的に小さいという問題。統一するには多次元宇宙が有効かも。一般相対性理論以来,重力は空間(時空)の幾何学的性質として説明されるので,余剰次元にも重力は沁みだしているはず。だから重力は特別扱いで,電磁力などは三次元にへばりついてるのかも。
 最後の第八章が「宇宙は本当にひとつなのか」。超ひも理論によると,宇宙は11次元で,方程式の解の候補が10^500個にもなる。これがそれぞれ別の宇宙とすると(多元宇宙),その中にたまたま星や銀河が生まれ,人間が誕生するほどの好条件が満たされる宇宙が存在しうる。
 我々の宇宙の各定数は,非常に巧妙に調整されていて,少しでも定数が狂ったら,物質も何も存在できないそうだ。暗黒エネルギーの候補に真空のエネルギーがあるが,普通に計算すると120桁も大きな答えが出てしまう。でも10^500個も宇宙があれば,その中に真空のエネルギーがたまたま期待される量の120桁下の値になっている宇宙があるかもしれない。その極めて幸運な宇宙が我々の宇宙で,我々人間が誕生したために,それが理解されつつあるのかもしれない。人間のいない宇宙では何も理解されることはない。人間原理。なんとも不思議な話だ…。

巨大翼竜は飛べたのか?スケールと行動の動物学 (平凡社新書)

巨大翼竜は飛べたのか?スケールと行動の動物学 (平凡社新書)

台風15号直撃で電車に缶詰となって長〜い乗車中に読んだけど,やきもきしてて細かいとこはちゃんと追えなかった…。「バイオロギングサイエンス」の成果で古生物の常識を覆す!みたいな。
 生物の生態を研究するのに,各種センサを搭載したデータロガーを個体に取り付けていろんなデータをとることが行なわれるらしい。最初は観察の難しい水生動物を調べる目的で,それが空飛ぶ動物にも有効になってきた。最新のは加速度センサもついてる。
 しかし前フリが長く,なかなか翼竜の話にならないのはじれったい。まえがきでも断ってはいるが。二乗三乗の法則やそれが水生動物には成り立たないこと,ウミガメ,マンボウ,ヨーロッパヒメウ,オオミズナギドリなどで200ページを費やした後,いよいよ翼竜の話に。
 空を飛ぶ動物は,大きくなればなるほど飛ぶのが難しくなる。重力と筋力の関係で。だから翼長10メートルもあるようなケツァルコアトルスみたいのは普通に考えて自力で飛ぶことはできないと結論する。一般に推定体重70キロとされているが,これは著者にとってあり得ない数値だからだ。
 自力で飛べないなら,強風を受けて上昇すればいいかと思うとそうでもない。自由に離着陸できないようでは生き残れないと著者は言う。それならどうやって飛んだか?二つの可能性を挙げている。揚力と重力。
 飛行するには揚力と重力が釣り合っていなければならない。揚力は空気の密度に比例するので,翼竜のいた時代の大気の密度が今より大きかったら重力にうちかつ十分な揚力が発生できたのではないか,という。もう一つは重力が昔は今より小さかったのでないか,というが,さすがにこちらは自分でもトンデモない説だと言っている。でも,大気密度にしたって,揚力だけでなく空気抵抗にも比例するんだから,抵抗が増えたぶん余分な推力が必要になるので,違うんじゃなかろうか。余計な筋力がいるよな…。
 化石から翼長を推定するときに,現生のトリとか参考にしてるのが間違いのもとという話の方がしっくりくる。10メートルもなくて,もっと小さいと考えれば,推定体重が軽いのも案外納得いくのではないだろうか。
 著者の研究遍歴が面白い。長らくウミガメ研究をしてきたそうだが,水産学科だったため,食べられないウミガメを研究するのに技巧的な説明が必要だったとか。「ウミガメが網にかかって死ぬような水産業ではダメ,持続可能な漁業を模索する為ウミガメ研究が必要」なんだって。そのあと極地研に移るが,ウミガメはむしろ小笠原とか熱帯の海にいる。そこで「新装置をいきなり南極にもっていくのはマズイ。装置のテストにウミガメはもってこい。」という言い訳がいったとか。東大海洋研に移った今は,そういう心配がなくなったそうだ。

気候変動とエネルギー問題 - CO2温暖化論争を超えて (中公新書)

気候変動とエネルギー問題 - CO2温暖化論争を超えて (中公新書)

 金属物理を専門としていた著者が,人的温暖化論で歪められたエネルギー問題を見つめ直し,将来への展望を語る。太陽光,バイオマスを繋ぎとして,将来は核融合の利用へ。
 本書の前半は気候変動について。序章でクライメートゲート事件を取り上げ,一章で気候変動の科学の説明。クライメートゲート事件とは,一連の電子メールの漏洩によって明らかになった不祥事。CO2削減の根拠となった人為的温暖化論のかげに,科学者たちの陰謀めいた策動があったという。
 著者は,クライメートゲート事件によって人為的温暖化論の根拠は全面的に崩れたとしていて,日本だけこの点報道もせず,律義にIPCCを信仰していると述べてるが,はたしてどうだろうか。地殻に眠っていたCO2を人類が急激に大量放出していることは確かで,これは好ましくないだろう。
 気候変動について,近年いろいろなことがわかってきたという話は端的に面白い。地球は過去に,灼熱の世界だったこともあるし,表面がすべて氷河に覆われた全球凍結も経験した。数十万年単位でも,気候は大きく変動してきていて,現在の地球が特に温暖化しているというわけでもなさそう。
 興味深いのは,宇宙線と気候の関係だ。太陽活動によって地球の気温が変化するというのは「あーなるほどね」と思うのだが,単に日射量の変動が影響するというだけではないらしい。太陽活動が活発になると,太陽の磁場が強くなり,それが太陽系外から飛来する宇宙線をより多く遮蔽する。宇宙線は,雲の形成に関わっており,宇宙線が太陽磁場で減少すると,雲の量が減って,地表に届く日射が増える。そのために温暖になる。太陽の黒点数は,「11年周期」で変動するが,磁場は反転するので,太陽磁場と地球磁場を合わせたものは「22年周期」で変動。この「22年周期」に合う宇宙線強度の記録が,樹木のC14の解析で,過去1200年にわたって得られているという。最近の宮原氏の研究成果による。これは確かNHKの「コズミックフロント」でも紹介されてたっけ。
 後半はエネルギー問題について。著者はやや門外漢な感じがするが,よく調べてまとめているような気もする。植物バイオマスの活用はよく聞かれるが,さほど注目されていない藻類も大きな可能性をもっているという。太陽エネルギーの11%に相当する水素を発生する緑藻クラミドモナスなど。
 核融合は,トカマクなどの磁場閉じ込め型よりも,慣性核融合を評価。DT混合固体に四方から強力なレーザーを当て,急速加熱された試料がもつ慣性を利用して,飛び散る前に核融合反応をさせてしまうというもの。これで入力したレーザーのエネルギーを何倍にも増幅して取り出すことができる。
 水素爆弾では原子爆弾を引き金にして核融合を起こすが,それに似ている。しかも,レーザーを止めれば,核融合は止まるので,安全。ただ,著者は「四個のプロトン(H)が融合してヘリウム(He)になるという太陽で起こっている反応を…」(p.196)等,不審なことも言っているので…。