7月の読書メモ(技術)

共産党より日本が好き? 中国人一億人電脳調査 (文春新書)

共産党より日本が好き? 中国人一億人電脳調査 (文春新書)

 中国のネットユーザー(罔民)に,中国版ツイッター(新浪微博)を通して意識調査。その結果を紹介。反日の声が大きかった中国のネット世論に,大震災後,日本見直しの動きもある。
 中国では共産党が情報を独占してきた。しかしこれもネットの普及により変わりつつある。民衆もネットを通して伝統的メディアより先に情報を取得し,吟味できるようになってきた。当局は検閲を強化するが,なかなか追いつかず,ネットの中には共産党の支配が及びにくい言論空間が広がっている。
 「官」の下で「民」がうごめく中国社会。中国の検閲システムは「防火長城」と呼ばれ,中国でツイッターをやるには特殊ソフトでその壁を越えなくてはならない。これはいかにも敷居が高く,多くの人は中国当局の管理する「微博」を使ってコミュニケーションする。もちろん検閲が入る。
 共産党が都合の悪い情報への規制を強める中,ジャーナリストや民衆は新聞上では闘えず,ネット上で闘いを挑む。検閲が入るものの,「微博」はその即時性からくる大衆動員力によって,一定の影響力をもつようになった。
 とはいえ一般の「微博」の使い方はそれほど政治的ではない。ネットを通して日本文化を楽しむ罔民たちは多い。言論の自由がない中国では役者や歌手はどうしても国家のプロパガンダの道具になり,彼らのメッセージは愛国心に傾きがち。その隙間を日本のアイドルが埋めている。
「蒼井空老師」やジャニーズが特に若い世代に人気だという。その一方で,90年代からの愛国教育の影響によって,若者の間では反日感情も強い。戦争の反省がないと憤る罔民も。尖閣諸島(釣魚島)も中国の領土だと譲らない。
 そもそも愛国主義教育は,冷戦が終結してマルクス主義毛沢東思想が色あせる中,その代わりに国民を繋ぎとめるアイデンティティの道具として導入された。民衆や知識人を愛国で共産党に取り込む狙いがあった。罔民の反日感情は,その愛国教育が一定の成功をおさめた結果ともいえる。ただこのナショナリズムは,暴走の危険もはらむ。共産党は民を利用しながら民を恐れる,結局は検閲や拘束を駆使して,力で民を抑えるしかない。
 最近のネットによる言論と当局の締め付けの鬩ぎ合いは,50年前に似たような例がある。56年のスターリン批判により体制への危機を感じた毛沢東が,民主的雰囲気を醸し出そうと知識人の自由な議論を容認する「百花斉放百家争鳴」を提唱。「言う者に罪なし」とするが,予想以上に党批判が高まり,毛沢東はてのひらを返す。「反右派闘争」で知識人を弾圧するのだ。自由な発言を促す政策が,共産党の敵をあぶりだすおとりになった格好。近年のネット言論では,劉曉波の「08憲章」が有名。彼はノーベル平和賞を受賞するが,当局に拘束されてしまう。
 またチュニジア・エジプトでネットを使った民衆蜂起による政変が起きたことも,中国政府を敏感にしている。今後,中国の一党独裁体制はどうなるのか,興味深いところ。罔民の存在が鍵を握っているのかも知れない。


最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか

最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか

 宇宙開発・航空機・油田掘削・原発・大規模プラントといった,現代の巨大技術。ひとたび事故が起きると,人命にも経済にも重大なダメージを与える。直接人命こそ失われていないが,まさに今の日本で進行中の原発事故もその一つだろう。産業革命以降,人類は多くの大事故を経験し,その原因を調べ,さらなる事故を回避すべく対処をしてきた。豊富な事例を紹介しつつ,現代文明の生み出した危険とどう共生するかを探る。
 著者はアメリカ人なので,扱われる事故もアメリカで起こったものが中心。世界一の経済大国ということで事故も多いのだろう。日本での事故も少し載ってた(JCO臨界事故)。単独の航空機事故では世界最悪(死者数)とされる御巣鷹山墜落事故はなかった。コンコルドの墜落事故は載ってた。ほかに,油田開発での大事故が結構載っていて,化石燃料の採掘にはかなりの危険が伴うことを再認識。海上に浮かぶ石油掘削リグが強風と高波で沈没することもあるという。スペースシャトルや飛行機事故のようにあまり報道はされないが。化学工場の事故にも大規模なものが。1984年,インドのボパール殺虫剤工場からガスが漏れ,約七千人が犠牲になった。
 本書が収録するのは20世紀後半の事故が大半だが,もっと古い事故もいくつかある。1930年の英国巨大飛行船R101墜落事故や南北戦争中の蒸気船爆発沈没事故など。
 このような大事故の原因,防止するうえでの対策も論じられるが,あまり体系的でなく,事例の紹介がメインという感じ。巨大化し複雑化するシステム,不具合の連鎖,計画通りの進行という圧力。疲労や思い込みといった人間の限界も事故につながる。
 反面,事故を食い止め,将来の事故を防止していく主役も人間だ。前兆を感じ取り,入念な訓練,適切に与えられた権限によって事故を未然に防ぐ。事故や事象に学び,再び事故が起こらないよう対策することが不可欠。事故後の過度の責任追及は,真相解明を困難にするが,日本は大丈夫だろうか。


電車のしくみ (ちくま新書)

電車のしくみ (ちくま新書)

 マニアックといえばそうかも。でも日々乗ってる電車だし,仕組みとかちょっと知ってると,なんか身近なトリビアでいいかも。
 感心したのは「指差喚呼」。指差して声に出して確認することで,ミスを防ぐ。この手法は日本の鉄道で始まって,それが海外や鉄道以外の工場などにも広がっていったという(p.40)。へえ。
 あと,日本は電車が多くて外国では機関車+客車が多いけど,この理由もなるほど。高い運転密度の要求される日本では加速減速性能がよく,折り返し運転が簡単な電車が適してること,軟弱地盤の多い日本は重量が集中する機関車方式は不利なこと,などなど(p.95)。
 先月までやってたドラマ「下流の宴」で,お父さんが,辛いことがあるたびに鉄道模型を囲むお店に行って心を癒すのが印象的だった。もちろんオジサンしかいない店。なんか思い出した。男は乗り物好き。