2月の読書メモ(宇宙・明治)

・宇宙

 著者ははやぶさプロジェクトの責任者。はやぶさが,地球の重力圏を脱して再び地球に戻ってきた初めての物体だったとは知らなかった!あと,「はやぶさ」も「イトカワ」も打上後の命名っていうのも意外。はやぶさについては,他にもいっぱい本があるようだが初めて読んだ。今度,松浦晋也さんの「星になった小惑星探査機はやぶさ」も出るらしい。読みたいなー。

スペースシャトルの落日~失われた24年間の真実~

スペースシャトルの落日~失われた24年間の真実~

 今年退役するスペースシャトル,子供のころは素朴にかっこいい!と思ってた。事故を乗り越えて頑張ってる感じだったが,そもそもまるっきりコンセプトから間違っていたという批判の本。
 アポロの大計画が終り,次に何をするというので,関係企業はまたどでかい長期プロジェクトを望んだ。再利用可でコスト削減という大義名分。夢のような話にNASAも乗り気で始まったスペースシャトル計画だが,技術的困難から遅延,そして二回の致命的事故で逆風が吹き荒ぶ。それに,人も荷物も運べるという二兎を追うような設計。安全性では人に合わせ,積載量ではモノに合わせる非効率。翼をつけたのも何だか思いつきのようで,強度や空力加熱の点でものすごく不利だった。再利用回数も計画通りには全然届かず,コストも結局下がらなかった。
 スペースシャトルと聞いて誰もがすぐに思い浮かべる特徴的な翼も,実際は無用の長物。地球に帰還する時,宇宙船は「落ちている」にすぎないから,翼はいらない。検討で翼の唯一の利点は,大気圏再突入後に進路を変えられることと判明。結局,ソ連の衛星を捕獲→すぐ米本土に帰還する能力を持たせるために国防総省がGO出したらしい…。

宇宙旅行はエレベーターで

宇宙旅行はエレベーターで

 静止軌道を重心にしてケーブルを地表にぶら下げて,それを伝って宇宙に行ける。軌道エレベータの本。SFみたいな話だが,研究者が真面目に書いている。著者いわく,2020-30年ころには実現できるらしい。ケーブルの長さが十万kmも必要で,従来の材料では自重で切れてしまうところ,CNT(カーボンナノチューブ)という新素材が計算上は自重に耐えるので,実現可能だという。でもいろいろと障碍もあるし,あと十年二十年でというのは随分威勢のいい楽観論だなーと感じた。
 時速200キロで静止軌道まで約7日軌道エレベータのかご(クルーザと呼んでる)はホテルみたいになってて(重量20t),到着までそこで快適に過ごすんだって。SFでしょ?でもちゃんと計算して割り出してる。ケーブルの敷設は,まず細いのを一本(長さは十万キロ)ドラムに巻いて,ロケットで静止軌道に打ち上げて,繰り出す。それが地表に届いたら,そのケーブルを足場にして沢山のケーブルを持ち上げて,束ねて太いケーブルにするらしい。地上の駅は,南北回帰線間であれば大丈夫みたい。まっすぐじゃなくカテナリ状にぶら下がる感じ。台風とかの危険を避けるため,むしろ赤道上は非推奨。

・明治

海戦からみた日露戦争 (角川oneテーマ21)

海戦からみた日露戦争 (角川oneテーマ21)

 後に神話化された日本海海戦。その実際の経過はどうだったのか,勝利の背景には何があったか,が分かりやすくまとめられててよかった。

鉄道と日本軍 (ちくま新書)

鉄道と日本軍 (ちくま新書)

 近代化以降百年以上国策だった鉄道事業。特に軍隊とは密接な関係にあった。ドイツ流の迅速な兵力集中には,兵隊や物資を大量に陸送できる鉄道は欠かせなかった。西南戦争から日露戦争まで,明治の鉄道と軍隊の歩み。

歌う国民―唱歌、校歌、うたごえ (中公新書)

歌う国民―唱歌、校歌、うたごえ (中公新書)

 明治12年という早い時期に新政府は西洋音楽の導入を始める。目的は芸術・文化の向上などではなく,「日本国民」を作るためだった。「コミュニティソング」をキーワードに,明治から昭和までの歌の歴史をたどる。
 西洋音楽の導入は,日本を国民国家としてスタートさせるにあたり,近代的制度や生活に必要な知識の普及を主眼に行われた。貯金の仕方,食中毒の防止法,栄養の大切さ,なんかを歌いながら覚えさせようという話で,東京音楽学校の先生たちは大真面目にそういう唱歌を作った。もちろん皇国イデオロギーを植え付ける唱歌も作られ歌われたが,それだけでなく,日本の地理とか銀行とは何かとか,実用知識を身につけるための唱歌も多かった。そして国だけでなく民間からもそういう歌がたくさん提案され,歌われた。かなり意外。
 また,江戸時代までの日本人は,皆で一斉に体を動かすようなことをしなかったので,近代的兵隊には不向きだった。リズムに合わせて全員揃って動かせる,そういう身体を作り上げるのに,音楽は不可欠だった。あと,近代制度・知識を伝える唱歌をはじめとして,内容つまり歌詞重視で,メロディは結構西洋のをそのままパクってきちゃうこともあった。今,我々は中国を著作権が守られないとか批判するが,日本も近代化の途上ではあっけらかんと同じようなことをしていた。
 少し例を挙げると,「郵便貯金唱歌」の歌詞。♪いざ貯金せよ貯金せよ 貯金の数の重なりて 通の紙のなくならば 又別帳を請ひ受けよ
夏季衛生唱歌」の歌詞 ♪蟹やイカタコ海老イワシ 揚げ物貝類ところてん ささげにかぼちや,もち,だんご いづれもこなれぬものなるぞ ♪すべて飲み食ひしたものが あとで悪いと気付いたら 指を差し入れ吐き出して あとを塩湯でよく洗へ
 こういう唱歌で,下々の日本人は近代をとりいれていったのだなあ。そして皆で声を合わせて歌って,一体感を高めることも重要。コミュニティソング。そうして日本人とか何々県人とかが出来あがった。感慨深い。
 唱歌栄養の歌」の歌詞 ♪豆腐・納豆・味噌・黄粉 豆こそ肉の代用なれ 小間切肉や煮干添へ 美味と栄養兼ね得べし 凡そ調理に心して 廃物出さぬ工夫せよ 貯蔵の法を弁へて 天の恵みを無益にすな
 何だか保育園で歌う歌みたい。食べ物って大事だよ!
 卒業の歌についても一章割かれていて,唱歌仰げば尊し」と戦後の「旅立ちの日に」の綱引きについて詳しい。「女王の教室」というドラマが一役買っているらしい。あと,宗左近のぶっとび校歌とか,長野県歌「信濃の国」についても触れている。戦後のうたごえ運動についても。うたごえ喫茶とかうたごえ酒場とは違って,うたごえ運動は労働組合なんかが合唱団をつくって,全国的な統制の下に行なわれた文化運動。基地闘争とかの左翼運動とも連帯。山崎豊子の小説で,混声合唱団をエサに左翼運動にオルグするみたいな場面があったって,こないだ妻が言ってた。うたごえ運動ってそんな感じだったのかなあ。戦後のそういうのって面白い。