1月の読書メモ

・社会・文化

子ども兵の戦争

子ども兵の戦争

 軽くて操作・手入れの簡単なライフル,カラシニコフが,ローティーンの少年少女を戦争に巻き込んだ。安価,従順,勇敢(無謀),敵が反撃をためらう,優秀な兵士になる。20世紀の戦争も悲惨だが21世紀の戦争も悲惨。

AK‐47世界を変えた銃

AK‐47世界を変えた銃

 シンガー『子ども兵の戦争』を読んで,カラシニコフについて興味をもち,読んでみた。著者はジャーナリストで,内容はスペックとかマニアックに取り上げる感じでは全然なくて,バランス良し。冷戦終了後,全世界に大量に出回ったソ連製の自動小銃。安価,軽量,取扱容易なこの銃は,子供も殺人鬼に変えてしまう。AK-47の存在は,サブサハラや南米ではもはや文化の一部になってしまっている。カラシニコフ文化の中ですさんだ人心を元に戻すのは容易でない。

お言葉ですが…〈別巻3〉漢字検定のアホらしさ

お言葉ですが…〈別巻3〉漢字検定のアホらしさ

 著者の高島俊男は昭和十二年生れの元漢文教師で中国文学者。ここ数年私淑していて,彼の著書はほぼ欠かさず読んでいる。去年新刊が出ていたのに気づいて読んだが,やっぱりよかった。漢字検定のあきれる無意味さを指摘,酷評していて大変に溜飲が下がる。
 著者は週刊文春に十年あまりコラム『お言葉ですが…』を持っていて,漢字や言葉,文人たちについてのエッセイを書いていた。中国文学への造詣はとても深い。三國志水滸伝についても信頼に足る本を出していてお薦め。

気骨の判決―東條英機と闘った裁判官 (新潮新書)

気骨の判決―東條英機と闘った裁判官 (新潮新書)

 戦中の翼賛選挙で,官製選挙妨害を認めて無効判決を出した大審院判事,吉田久を扱った本。昨夏のNスペで同名のドラマやってた。当然,本の方が詳しい。戦前に実現した普通選挙が,買収・汚職をもたらして粛正選挙に大義名分を与え,そこで培った選挙統制のノウハウが翼賛選挙で活かされたという逆説が背景にあった。戦前も戦後も,日本における民主主義の歴史って皮肉だなあ。

天皇はなぜ万世一系なのか (文春新書)

天皇はなぜ万世一系なのか (文春新書)

 「万世一系」は明治になって強調されたが一般的には貴族も武家も「血より家」だった。江戸期に朱子学の影響で大奥ができて「血も家も」になるというが,天皇家がなぜ昔から「血も家も」だったのかはよくわからなかった。



脳科学

哲学する赤ちゃん (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ)

哲学する赤ちゃん (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ)

 赤ちゃんを観察することで哲学上の難問への理解が深まる。因果関係とごっこ遊び,見落としと認知。子育て中の親におすすめ。

脳神経科学リテラシー

脳神経科学リテラシー

 fMRIやPETなどの脳機能画像が濫用され,誇大広告・虚偽広告が生み出される世の中。だまされないようリテラシーを身につけておくのにとても有益な本だった。教科書として使われることも想定。
 心体二分法の功罪,偽記憶,自由意思,変化盲,理性と感情,神経神話,三歳児神話と臨界期,マインドリーディング,ブレインマシンインターフェイスBMI),脳機能障碍,脳トレの謳い文句の検証,エンハンスメント社会への警鐘などなど,興味深い話題が幅広く取り上げられていてとてもよかった。
 BMIは昔立花隆かなんかが出てたNスペで取り上げられてすごいショックを受けた覚えがある。出力型BMIと入力型BMIがあって,出力型は電極で脳からの信号を拾って,マニピュレータやコンピュータのカーソルを,考えた通りに動かすやつ。入力型は,カメラやマイクからの信号を脳に直接送って,見えたり聞こえたりするってやつ。四肢を欠損したり,網膜や内耳を損傷しても,失われた機能を取り戻せる夢の技術だが,まだ発展途上のようだ。

さらば脳ブーム (新潮新書)

さらば脳ブーム (新潮新書)

 著者は脳トレの教授。脳トレ批判に反論という触れ込みだが,愚痴ってるだけって感じ。語り口も上品でない。研究しっかりやってるというが節操がない。アマゾンのレビューは褒めすぎ。
 モギケンを「芸脳人」の代表格として名指しでダメ出ししてる。でも,森永と一緒に「ホットケーキ作りは脳にいい」とかヤマハと一緒に「バイクの運転は脳にいい」とかやってる川島教授もなんだかな。



・科学・技術

 相対論,量子論素粒子論,宇宙論の20世紀をコンパクトに紹介。とてもイイ。素粒子標準模型や,未完成の超ひも理論大統一理論,量子重力理論,どのくらい短い距離まで重力が逆二乗則に従っているかどうか検証する短距離重力なんかにも触れてる。
 人間原理の濫用は物理学の放棄だ!という見解に共感。宇宙,生命,人類が生まれた奇跡に近い現実を,人間原理はこう説明する。「だって,人間くらいの知的生命が生まれる条件を宇宙が備えてなければ,それを観測する主体がいない。宇宙が奇跡的にうまくできてるように見えるのは,そう感じる人間がいる以上あたりまえ。」

ヒューマンエラーを防ぐ知恵 (DOJIN選書)

ヒューマンエラーを防ぐ知恵 (DOJIN選書)

 システムが巨大化し精密化する現代,もう40年ほど前から,大事故の主因は機械の故障から人間のミスに移ってきた。どんなミスがどんな事故につながるか,それを回避するにはシステムをどう設計するか。
 事故の事例ですごいのは,84年,千人以上の付近住民が中毒で亡くなったインドの化学工場の事故(http://tinyurl.com/yguogmf)と,77年に空港の滑走路で747同士が衝突し600人近くが亡くなった事故(http://bit.ly/enuIHk)。史上最悪の航空機事故は,飛行中に起こったのではないというのに驚く。そういえば911はテロで事故じゃない。

定刻発車―日本の鉄道はなぜ世界で最も正確なのか? (新潮文庫)

定刻発車―日本の鉄道はなぜ世界で最も正確なのか? (新潮文庫)

 日本の鉄道の定時運行率は世界的に見て特異。欧州でも15分未満の遅延は遅れにカウントしないというが,日本は1分1秒違わぬ運行を目指すのが当然とされている。その背景・経緯をいろいろ考察してある。

毎日乗っている地下鉄の謎 (平凡社新書)

毎日乗っている地下鉄の謎 (平凡社新書)

 毎日乗ってる電車が,日本で初めて地下鉄との相互直通運転を始めた路線であることを知った。あと,毎日の乗替駅,なんか妙なホームの使い方をしているなーと常々思ってたら,経緯がこの本に書いてあった。昔普通の島式ホームだったのに,人が溢れすぎて反対にもう一つホームをつけてしのいだので,あんな風になったのね。ナルホド。
 路線図がほとんど載ってないので,首都圏以外よくわからない本だったのは残念。

数学に恋したくなる話 (PHPサイエンス・ワールド新書)

数学に恋したくなる話 (PHPサイエンス・ワールド新書)

 大学受験では先生の本にお世話になったなあ。この本はラジオ原稿を起こしたようなものらしく,雑談風でちょっと内容薄め。

 以前読んだこっちの新書の方が,中身がよ〜く詰まってて,おもしろかった。