6月の読書メモ(情報)

検証 陰謀論はどこまで真実か パーセントで判定

検証 陰謀論はどこまで真実か パーセントで判定

 世の中は巨大な陰謀組織に操られていて,真相は隠されている。大多数の人はそのことに気付いていない。たいした根拠もないのにそのような主張をする人たちがいっぱいいる。
 彼らの説は陰謀論と呼ばれる。彼ら陰謀論者の議論がどの程度のものなのか,34の事例について検証していく,という本。彼らが主張する陰謀の根拠とは,知識の欠如からくる「どう考えても不自然だ」という思い込みとか,「…が事実をありのまま公開するはずはない」という偏見でしかない。
 事例は,温暖化陰謀論ケムトレイル,SARS,孝明天皇暗殺,満洲事変,下山事件ロッキード事件日航ジャンボ機墜落,人工地震津波ガス室否定論,911陰謀論,ダイアナ妃事故,アポロ月非到達説,チャレンジャー事故,フリーメイソンイルミナティ,UFO陰謀論などなど。
 フリーメイソンイルミナティは,ダン・ブラウンの小説で日本でも有名になった陰謀組織。真に受けてはいけない。『天使と悪魔』も『ダヴィンチ・コード』も読んだが,あくまでもフィクション。「登場する団体は実在する」云々とおどろおどろしい注釈がついてたと記憶するが,そんな巨大陰謀をこととする組織なんかではないだろう。『天使と悪魔』では,CERNから盗み出された反物質が最悪の殺戮兵器として描かれていたが,なんで反物質をあんな大量に閉じ込めておけるのか?やっぱり小説だよねーと思った覚えがある。
 満洲事変の発端となった鉄道爆破事件は関東軍の謀略だったということが明らかにされているが,実はソ連の策略だったのだ,というのが満洲事変陰謀論。『ワイルド・スワン』でブレイクした長戎の『マオ』が邦訳されて日本で一時流行った説らしい。
『ワイルド・スワン』はなかなか良い本だったが,『マオ』は事実誤認がはなはだしい本として酷評されている。このへんは過去ブログにも書いた→http://bit.ly/lFQy3U
 あと,陰謀の主役とされるのはアメリカとかユダヤ人とかが多い。下山事件はGHQの陰謀らしいし,SARSとかロッキード事件アメリカの陰謀,JAL123便もチャレンジャーもアメリカが落としたし,アポロの月の映像も捏造だ。アメリカは地震兵器まで持っている。いやはや。
 HAARPによる人工地震というのは結構定番の陰謀論らしく,この本が出たのは1月だが,当然今回の311でも,陰謀論者たちが巨大地震は米軍の仕業だとか,純粋水爆が使われたのだ,とか陰謀論者が勢いづいている。→例:リチャード・コシミズhttp://bit.ly/hFVwdl
 そういうのを結構信じちゃう人がいるのがすごい。信じ込んでしまうと,陰謀を否定する証拠がないのは陰謀がひそかに行なわれている証拠と考えるし,陰謀を否定する証拠が出てきてもそれは目に入らなかったり捏造だとか思い込むので,正気を取り戻すのは難しい。
 そもそもそんなに巨大な陰謀が行なわれるにはどんだけ沢山の人が関わって,口裏を合わせなければならないか。露見するリスクを負ってまで敢行するメリットは何か。冷静に考えれば陰謀論の方がよほど「不自然」と思う。
 もちろん世の中に陰謀がまったく存在しない,という話ではない。ただ,いわゆる陰謀論がテーマにする陰謀は規模が大きすぎて発覚のリスクが高いわりに,動機となるほどのメリットが感じられないことがほとんどだ。
 陰謀論はネットの普及によってとても身近になった。情報を選り好み出来るので,陰謀論批判は無視すればよく,簡単にはまれる。本書も,各事例について(伝説)として陰謀論を掲げ,(真相)としてそれが成り立たない根拠を述べるが,(伝説)だけ読めばそこは陰謀論ワールド。危険かも…。


ダメ情報の見分けかた メディアと幸福につきあうために (生活人新書)

ダメ情報の見分けかた メディアと幸福につきあうために (生活人新書)

 流言,内容のない言説,事実と価値判断の不可分性について。情報の海でどのように良く生きていくか,メディア・リテラシー入門。
 誰しもありのままの事実を知るなんてできなくて,みんな不完全な情報,加工された情報をもとにして,思考し行動しなくてはいけない。完璧ではなくても,より確からしい情報を手に入れて正しい判断をするために,どのような心構えが要るのか,確認しておくのは大事。
 流言の根底には,情報に対する需要と供給のミスマッチがある。真偽を問わなければ,情報を生み出すコストってべらぼうに低いので,供給不足のところにガセ情報が投入されてあっというまに広まってしまう。それも,単純でステレオタイプに沿ったストーリーだと効果的。
 世の中は複雑だから,単純な話やいかにもな話は,まず疑ってかかるのがいいんだろう。それと,世の中のしくみ(社会・科学)にはある程度基礎知識があった方がいい。それをもとに,胡散臭い情報って結構遮断できると思う。
 そういうことができない人たちが陰謀論にはまってしまうんだろな。学校で基礎知識を与えるのも確かに重要だけど,そういう危険な情報が世の中にはうようよしてるんだよってことをもっとあからさまに教えられるといいんだけど。もうやってるかな?メディアリテラシー教育。

風評被害 そのメカニズムを考える (光文社新書)

風評被害 そのメカニズムを考える (光文社新書)

この本の定義によると,風評被害とは,事件・事故・災害等の問題が報道されることで,本来「安全」とされるものを人々が危険視し,消費・観光・取引をやめること等によって引き起こされる経済的被害
 ただ難しいのは本当に「安全」かどうかというのが必ずしもはっきりしないということ。立場によっても違うし,すぐにはわからなくても,後になって実は安全だったと確認されることもある。そもそも「安全」でないならば,経済的被害が起きてもそれは風評被害ではない。
 日本における風評被害のはしりは,第五福竜丸の被曝事件。「放射能パニック」が起こり,被曝とは無関係の魚まで売れなくなったり安く買いたたかれたりした。その後も原子力船「むつ」の放射線漏れ(74年),JCO臨界事故(99年),今回の福一事故など,放射能による風評被害は顕著。
 他にも,ナホトカ号重油流出事故,所沢ダイオキシン報道なども記憶に新しい。「少しでも不安があるものは避ける」という行為が風評被害に直結する。特に状況がうまく理解できていないと,安全側安全側に行動してしまって,風評被害を助長する。だから正しい情報が迅速に提供されることが重要だが,それを信用できないと頭から否定する人も少なからず存在する。皆がパニックにならず落ち着いて行動できればいいのだけれど,やはり風評被害に適切に対応するのはとても難しい。