6月の読書メモ(原発)

原発安全革命 (文春新書)

原発安全革命 (文春新書)

 十年前の『原発革命』の新版。トリウム熔融塩炉のススメ。ウランの次に重い天然の元素トリウムを,熔融塩という液体の形で燃料として用いる原子炉。著者によると,安全で小型にでき,兵器への転用も困難。
 トリウムを含む液体の熔融塩を,黒煙を減速材とする炉心で核分裂させる。熱をもった熔融塩は炉心から配管を通って熱交換器に向い,二次冷却材と熱交換。二次冷却材が次の熱交換器で水を蒸気にしてタービンをまわす。熔融塩が炉心と熱交換器の間を循環。
 燃料のトリウム232は核分裂性ではないが,中性子を吸収したウラン233が核分裂する。低濃縮ウランを燃料とする従来の炉では,運転によってプルトニウムができてしまうが,トリウム炉ではできない。α線を出すプルトニウムは遮蔽が容易で兵器(核爆弾)転用可だが,トリウム炉とは無縁
 著者はしきりに,原発は核化学反応プラントだから,プラントらしく反応は液体中で起こすのが合理的と主張してるけど,そんなものなのだろうか。固体核燃料だと出力の変動を避けなくては経済的にうまくないが,液体燃料ならその心配はなく,出力可変になるらしい。
 ただ,トリウム232から生じるウラン233には,ウラン232が不可避的に付随して,それが大量のγ線を出すらしい。著者はそのためにテロリストに盗難されにくい,とか核兵器にしようとしても被曝して無理とか,むしろメリットとしている。遠隔操作で安全とも。
 これには異論もあるようで,短寿命の核分裂生成物が出す放射線が大量なので,それをいかにして閉じ込めるかというのが難題らしい。いくら炉心を常圧にできるといっても,やはり安全に運転する技術を確立するのは難しそう…。
異論は例えば→Togetter - 「へぼ担当氏によるクローズアップ現代「トリウム最前線」感想」 http://htn.to/8Ck4tK



 現状では,原子力発電は核分裂を利用して行なうしかないが,核融合で発電ができるようになったらいいことづくめ。燃料は豊富にあるし,何より安全性が格段に高いらしい。
 燃料は重水素三重水素で,それを加熱してプラズマにする。プラズマは原子核と電子が電離した状態で,原子核同士が衝突して核融合が起きる。核融合でα粒子と中性子ができ,中性子を水に吸収させてその時の発熱を利用してタービンを回し,電力を取り出す。
 プラズマはものすごく高温にしなければならない。なぜかというと,正の電荷を帯びている原子核同士が電気的に反発するので,ものすごく高速で飛びまわっていないと衝突せずにそれてしまうから。何億度という温度が必要になる。それを地上で実現しなくてはならない。
 何億度のプラズマは,ものすごく希薄でないといけない。圧力は温度と密度に比例するので,超高温で密度が普通だと,超高圧になってしまってそれを閉じ込めることができないから。低密度のプラズマを超高温に加熱して,原子核をぶっつけて核融合させる。
 プラズマの加熱には,まずは外からエネルギーを加えてやらなくてはならない。加えるエネルギーより取り出すエネルギーを大きくしないと全然発電にならないが,これがなかなか難しい。プラズマに少しでも不純物が混ざると,温度がすぐ低下して核融合が止まってしまう。こりゃ安全だ。
 何億度に耐える材料などないから,プラズマを閉じ込めるのにも一苦労する。太陽は天然の核融合炉だが,そこでは重力でプラズマの閉じ込めを行なっている。地上では,磁場を使ってプラズマを閉じ込める
 プラズマは正負の荷電粒子の集合なので,磁力線を環状にしておけば,原子核や電子はその磁力線に巻きついて,外に出られなくなる。これを利用して,ドーナツ状の容器の内部にプラズマを閉じ込める。実際はもっと複雑で,磁力線にひねりを加えることも必要。トカマク型という方式が有効。
 核融合によってできる中性子は,電気的に中性なので,磁場の影響を受けずに容器の外に出てくる。そこに水を満たしたジャケット(ブランケット)を配置して中性子と作用させ,熱を得る。出てくる水蒸気でタービンを回して発電。
 中性子は,吸収されたり崩壊したりして,放射性物質としては残らない。中性子を吸収した原子核が放射性の原子核に変換される放射化は起こるが,それほどの量ではない。なお,燃料の三重水素が放射性なのだが,紙一枚で遮蔽できる弱いβ線である。
 このように,核融合では高レベル廃棄物のように取り扱いの難しいものは発生しない。実現したらさぞ有用なエネルギー源になるだろうが,まだまだ技術的に解決すべき課題も多く,実用化されるのは何十年も先になりそうだ。



緊急改訂版 〔原子力事故〕自衛マニュアル (青春新書プレイブックス)

緊急改訂版 〔原子力事故〕自衛マニュアル (青春新書プレイブックス)

 JCO事故後に出されてた本を,福島第一原発事故を受けて改訂したもの。原子力災害から身を守る方法が一問一答形式で書かれているが,疑問な点が多々
 例えば,問「自宅退避中、冷暖房は使ってもいいか」答「エアコンだけは、要注意」。なぜなら,「周知のとおり、エアコンは外部とつながっています。室内の空気を吐き出し、外部の空気を冷やして室内に送り込みます。…この利用は危険ということになるでしょう。」えっ,大丈夫?
 エアコンは部屋の中の空気を冷媒との熱交換で冷やして吹き出し,部屋の中だけで循環させるもの。っていうのは常識だと思うけど…。
 あと,被曝の影響は子供の方が受けやすいという話で,「仮に一万人が一シーベルト放射線を浴びた場合、ガンで死亡する人がそれぞれの年齢層に何人いるかを調べました。…三〇歳なら三八九二人となります。」の直後に,「一〇歳になると一〇五二一人となり、五歳なら一三三四四人に増加していきます。」って,一万人のうち一万人を超える人がガンになるってどういうわけですか??ちょっとダメな本でした。
 監修者の桜井淳という人は,原子力の専門家っぽいことが書いてあるが,ホントに監修してるのだろうか。