5月の読書メモ(生命)

生命はなぜ生まれたのか―地球生物の起源の謎に迫る (幻冬舎新書)

生命はなぜ生まれたのか―地球生物の起源の謎に迫る (幻冬舎新書)

 極限環境(深海とか地殻内)の生物が専門の著者が,すんごくくだけた文体で,生命誕生の謎に迫る。
 子供のころ,NHKで「地球大紀行」という番組に熱中したのを思い出す。「地球大紀行」でも生命の起源が描かれていたが,今はだいぶ研究も進んでいるみたい。まずは45.7億年前に太陽系ができ,0.3億年程度で今ぐらいの大きさの原始地球が誕生。45.3億年前には巨大な微惑星が激突して一部が飛び出し月になった(ジャイアンインパクト説)。
 出来立ての月は,いまよりずっと地球の近くにあって,随分とでっかく見えたらしい(見た人はいないが…)。それが潮汐力によってエネルギーを失いだんだん遠くになった。ていうか,今も徐々に遠ざかりつつある。
 原始地球はマグマオーシャンに覆われていて,液体の水はなかった。次第に地表が冷えて水蒸気が水になり海を作る。「地球大紀行」でもやってた。でも,その時期は,最近ではだいぶ早かったと考えられているらしい。最速44億年前という。海がなくては生命は始まらない。でもその頃はまだ隕石重爆撃期と考えられており,せっかくできた海も直径100kmクラスの隕石衝突で蒸発してしまったりした。過酷な環境だな…。でもとにかく42〜39億年前ころには重爆撃はおさまって,化学進化から生命が誕生し,今に至る進化につながったと見られる。
 そのころはちょうど最古の岩石が残る時代で,地質学で言う冥王代と太古代の境。今知られている地球最古の岩石は,カナダ北部のアカスタ片麻岩で,40億年前という。さすが大陸の岩石は古い。日本なんかせいぜい4億年…。
 最古の生命は,深海熱水活動域で誕生した。呼吸や光合成といった高級な代謝はまだないが,有機物を発酵する生命はいただろう。しかし有機物が枯渇するとそれらは死滅。生きながらえたのは,水素と二酸化炭素をエネルギー源とするメタン生成エネルギー代謝を有する超好熱性の生命だった。
 著者たちは,このようなメタン生成超好熱菌は,現代の深海熱水活動域にもいるはずだという仮説をたてた(ハイパースライム仮説)。でそれをいろいろと探すと,日本近辺にはなく,インド洋の「かいれいフィールド」で見つかった。水素濃度が高いことが必要だったらしい。でなんで水素濃度が違うのかと言うと,鍵は太古の地表には多く存在した「コマチアイト」という岩石だという。これが熱水と反応すれば水素ができるはず。「かいれいフィールド」にはコマチアイトがあるに違いない。
 調査の結果,「かいれいフィールド」にはコマチアイトに似た成分の岩石が存在することがわかった。また,著者らは,実験によって熱水とコマチアイトの反応で,実際に水素が生成されることも示したそうだ。まだ著者たちの説が定説になったわけではないのだろうけど,いろいろと調査・研究がされていて,興味深い。しんかい6500で潜って調査したりもするらしいが,ああいうのって近くで大地震が起こった時は安全なのかな?とふと考えてしまった。

ダーウィン入門 現代進化学への展望 (ちくま新書)

ダーウィン入門 現代進化学への展望 (ちくま新書)

 ダーウィンと現代進化学の紹介。前半では,ダーウィンの生涯と『種の起原』その他の著作をとりあげ,後半で進化論の基礎を解説。ダーウィンの進化論は,淘汰進化論で,これは生存に有利な突然変異が積み重なって,進化に寄与すると説く。一方,現在の主流は中立進化説で,突然変異の大部分は生存にとって有利でも不利でもなく,そういう中立的な変異の蓄積が進化をもたらしているとする。
 淘汰進化論も中立進化論も,生存に不利な変異が淘汰されてしまうことについては共通している。有利な変異が主か,中立な変異が主か,という違いだそうだが,有利と中立の境界ってどこなんだろう?単なる線引の違いじゃないのか?なんて疑問も残ったが,もっと勉強しないとかな。
 あと,子供図鑑等では,「なぜキリンの首が長いのかな?」「それは高い木の葉を食べられるようにだよ」とかやってるけど。あれはどうか。こういう目的的説明って分かりやすく,分かった気にさせるけど,誤解を招くよね…。ダーウィンより前にラマルクとかが言っていた,獲得形質が遺伝するっていう説は基本的には間違っていたのだよね。知識や文化の面では,明らかに祖先が獲得したものが子孫に伝えられるわけで,分かりやすい説ではあるんだけど。それから,「サルからヒトに進化した」みたいのあるじゃない。あれも語弊がある。チンパンジー等のサルとヒトが,「共通祖先をもつ」というのが正確。その共通祖先はサルではないよねぇ。

放射線と放射能 (図解雑学)

放射線と放射能 (図解雑学)

 図解でわかりやすく書いてある。前提知識なくても読めそうだけど,オージェ効果とか,β崩壊は三種類あることとか,結構細かいことも解説されている。
 なるほど,と思った話題いくつか。自然界には90の元素があるけど,最も重いウランは92番元素。計算が合わないが,43番のテクネチウム(Tc)と61番のプロメチウム(Pm)が,安定同位体を持たないため欠番になっているから。ちなみに94番のプルトニウムは天然にはない。地球ができたころはあったのだろうが,最も長いPu244でも半減期が8000万年で,46億年の間にほとんどなくなってしまったから。
 放射線防護の章に,レントゲンの助手の手の写真が載っていた。エックス線被曝で関節が変形して痛々しい。あのエジソンの助手も,エックス線被曝で癌に陥った。キュリー夫人白血病で亡くなったのは広く知られている。

人は放射線になぜ弱いか 第3版―少しの放射線は心配無用 (ブルーバックス)

人は放射線になぜ弱いか 第3版―少しの放射線は心配無用 (ブルーバックス)

 副題に「少しの放射線は心配無用」とあるように,ものすごい楽観的な本。著者は,物理学生として原爆直後の広島で調査にかかわり,のち放射線医学の研究に取り組んだ人。
 現在の放射線防護の考え方は,「閾値なし直線仮説」に立っており,微量の放射線も人体に害を及ぼすと考える。著者はこれを大間違いとしていて,閾値は存在して,閾値以下の被曝なら回復して害はないと主張する。それを支持する実験の結果なども載せている。
 放射線は,電離作用によってDNAを傷つけるが,少々の傷は修復されるという。また,修復できないほどのダメージを受けると,その細胞はアポトーシスによって自死を迎え,他の細胞に影響を及ぼさないようにしている。その結果,人体に有害な被曝量には閾値がある。理窟はなるほどなのだが,あまりにも楽観的すぎて不信感。放射線防護の分野では「閾値なし仮説」が定説のようなので,もし著者の言うことが本当ならそれはどういうことだろう?著書の中では原子力推進の立場を明確に打ち出しているし,かなり割り引いて考えたくなる。
 あと,第3版を読んだが,初版が85年と古いので,単位が今と違って読みにくかった。放射線量ではグレイ,シーベルトは使わずラド,レムを使ってる。一方放射能についてはキュリーは使っておらずベクレルは同じ。版を改めるときに換算すればよかったのに…