4月の読書メモ(法律・政治)
- 作者: 井上安正
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2011/01
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冤罪被害者の那須隆は逮捕時25歳。再審により雪冤を果たしたのは53歳。ひどい話だ。警官志望だった隆は,近所で起こった殺人事件を知ると,捜査に協力しようといろいろ動くが,それで目をつけられてしまった。せつない…。
否認事件だったようだが,鑑定結果がまずかった。鑑定人が曲者。「法医学の天皇」こと古畑種基博士が血痕鑑定をするのだが,当時の法医学は裁く側に協力する「国家学」。法医学の力で犯人を挙げることを誇りとしている鑑定人では,どうしてもバイアスがかかる。
古畑の鑑定は,財田川事件,島田事件,松山事件など,多くの冤罪事件で死刑確定させている。いづれも再審で無罪。すごい天皇もいるものだ。昭和50年に白鳥決定が出るまで,再審開始への道はほとんど閉ざされていた。冤罪の証明ができずに終った事件も少なくないだろう。再審がいかに難しいかを表すには,「針の穴に駱駝を通すより難しい」という比喩が有名。なんでラクダ?聖書だろうか。「鼻の穴に大根」との関係はあるのかないのか。
再審のきっかけは,真犯人が名乗り出たこと。別事件で何度も刑務所入ってる男で,出所後に元同囚に説得された。殺人事件はすでに時効が完成している。三島由紀夫の割腹が,真犯人の告白につながったというのは数奇。
- 作者: 佐々木信夫
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2011/01/01
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都知事の権力の源泉は,一千万の有権者に直接選ばれるという正統性。また十二兆円の予算をどう使うか,都知事の裁量権は大きい。身分が安定しており,基本四年の任期が全うできる。国政では全会一致の閣議を要するが都知事は一人で意思決定できる。ただ,都財政は景気の影響をもろに受ける法人二税(法人住民税と法人事業税)に大きく依存しているので,けっこう危ない橋。石原就任前年(98年)から7年間は赤字だったそうだ。
都知事って,歴代わずか6名しかいないとは知らなかった(戦前は官選の府知事,市長,長官)。安井誠一郎,東龍太郎,美濃部亮吉,鈴木俊一,青島幸男,石原慎太郎。革新都政で有名な美濃部は,天皇機関説で有名な達吉の長男。東以降,都知事が交代する度に政策は左右に振れた。
都知事の交代は,例外なく前知事の退陣による交代。つまり,前の都知事が立候補しない時に限る。今回の選挙でも,そのジンクスは守られ,歴代都知事は計7名にならなかったわけだ。
都知事経験者って長生きが多い。東さんは90まで生きたし,美濃部さんは80,鈴木さんは99まで。石原さんは今年79になるが,すごい元気そう。政治家って長生きが多い気がする。中曾根さんなんか今年93歳だし…。
ていうか,有名人って長生きする人多いよね。レヴィ・ストロース100歳,バートランド・ラッセル97歳,シャガール97歳,白川静96歳,ジョン・ホイーラー96歳,ピカソ91歳,シベリウス91歳…。平均して明らかに庶民より長生きぽい。聖路加病院の日野原さんは今年100歳!
- 作者: 福田ますみ
- 出版社/メーカー: 新潮社
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著者の福田ますみは,モンスターペアレンツに事実無根の体罰や差別発言を糾弾され,実名報道,裁判沙汰になった小学校教師を描いた『でっちあげ』も良い本だった。2月の読書メモ(その他)参照。
ロシアでの記者暗殺といえば,2006年10月,自宅アパートのエレベータで白昼射殺された女性記者,ポリトコフスカヤが良く知られている。彼女は「ノーバヤガゼータ」でチェチェン紛争の取材に熱心に取り組み,ロシア軍を痛烈に批判する記事を書いていた。
要するにロシアには報道の自由はない。テレビは特に顕著で,政権批判は難しい。比較的影響力の少ない新聞は,多少の自由があるが,それでもプーチンのスキャンダルなどタブーはある。何よりも,何十人ものジャーナリストが不審死を遂げていることが,相当な圧力になっているだろう。
本書では,2006年9月の北オセチアのベスラン学校占拠事件を二章にわたって取上げている。取材は困難で,当局は人質の数を過少発表するなど事実を隠蔽。300人程度と報道されたが実際は千人以上いて,突入により400人以上が犠牲になった。
そんな状況の中,「ノーバヤガゼータ」をはじめ,政権を批判し,真実を伝えていこうというジャーナリストがいるというのはすごい。ロシアの外からも,そういう人たちを支援する動きもある。ロシアも次第に変わっていくのかも知れない。