フェルマーの最終定理
もう十年以上たつ本だが,すごくおもしろかった。著者はこの本でデビューして以来,世界で最も売れているサイエンスライターのサイモン・シン。夏に読んだ「代替医療のトリック」も,彼が共著者のひとりだった。
フェルマーの最終定理とは,「n≧3のとき,2つのn乗数*1の和がn乗数となることはない」という命題である。n=2のときには3,4,5をはじめとしてこれを満たす自然数の組*2が,無限にたくさん存在するのだが,nを3以上にするととたんに成り立たなくなるのだ。400年近く未解決だったこの問題は,1995年にアンドリュー・ワイルズによって解決された。その歴史を丹念にたどったのが本書である。
ワイルズは,少年のころからこの難問を解決することを夢見ていて,それを実現してしまった。しかも,長年にわたって自分の取り組みを周囲に明かさず,一人ぽっちの研究で証明を作り上げた。発表した証明には,致命的かと思われる不備が見つかるが,なんとか救うことができた。とてもドラマチック。
- 作者: サイモンシン,Simon Singh,青木薫
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2006/05/30
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彼の「定理」とはいっても,彼自身が証明をきちんと残していたわけではなく,最終定理についても彼は「驚くべき証明を発見したが,それを書くには余白が狭すぎる。」としているのみである。最終定理以外の47の定理については,数学者たちが証明を(再)発見して正しい定理であることを確認したが,最終定理についてだけは長らく証明が失われていた。通常,数学の未解決問題は「予想」と呼ばれるが,フェルマーのだけ「最終定理」と呼ばれるのはこのような事情による。
大勢の数学者がこの証明に挑戦したり,あるいは意図せずに関わったりしてきた。ワイルズの証明では楕円曲線論に関する「谷山志村予想」が重要な役割を果たしたが,この二人の日本人についてもちゃんと書かれている。谷山の悲劇も印象深い。予想を提出後,彼は結婚を間近にして不可解な自殺を遂げたのだ。有能な数学者が若くして死んでしまう例は,とても多い気がする。本書で登場するガロアもそうだし,アーベルも,ラマヌジャンもそうだ。
考えてみると今年になってから,この種の本を何冊か読んでいる。自然科学の1つのテーマを取り上げて,それにかかわった人々の歴史をたどる,いわば人ではなく科学の伝記。
- 作者: マーシャ・ガッセン,青木薫
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
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- 作者: ジョージ G.スピーロ,志摩亜希子,永瀬輝男,坂井星之,塩原通緒,鍛原多惠子,松井信彦
- 出版社/メーカー: 早川書房
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- 作者: ロビン・ウィルソン,茂木健一郎
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- 作者: ディヴィッド・ボダニス,伊藤文英,高橋知子,吉田三知世
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- 作者: ジョージ・G・スピーロ,青木薫
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格子状の球配置に限ったケプラー予想はガウスによって証明されていたが,不規則な球配置を許容したときに,六方最密充填より密な充填ができないことを示すのは非常に難しかった。ほとんど自明に思える,円の最密充填(どの円にも6個の円が接する格子状の配置)についてさえ,証明されたのは20世紀の中ごろである。ケプラー予想では,最密充填に起こりうる局所的パターンが多くあり,それらをすべて数え上げ,それぞれについて計算し検証する必要があった。そのため,コンピュータの使用が不可欠であった。