4月の読書メモ(社会)

『「しがらみ」を科学する: 高校生からの社会心理学入門 』

 絡み合う「しがらみ」の総体である「社会」に出る前の高校生向けだけど,大人が読んでもためになる。「心でっかち」の罠の危険性を説き,「予言の自己実現」についても丁寧に解説。
心でっかち」という造語は面白い。少年犯罪や離婚率の上昇といった社会問題を,個々人の心の問題に還元して説明してしまう現象をそう総称している。80年代後半に離婚率が一時的に下がった事例を挙げてる。実はそれは心の問題などではなく,単に団塊世代が離婚適齢期を過ぎただけ。
「予言の自己実現」は「自己成就」だと思ってたがどっちもありなのかな。取り付け騒ぎのように,「予言」を信じて行動する人が一定数超えると,「予言」を信じていない人まで同様の行動をとらざるを得なくなり,結果として「予言」が成就してしまう現象。これが歴史的にも社会を大きく動かしてきた。
 社会はミクロに見ていても分からない。総体的な構造をしっかり把握して議論していくことが重要。本書ではその導入として二つのパズルを出して,「全体を眺めること」の大切さを教えてくれる。そのパズル,二つとも間違えてしまったよ…。ジントニックとスキー場のパズル。無念。

結核という文化―病の比較文化史』

結核という文化―病の比較文化史 (中公新書)

結核という文化―病の比較文化史 (中公新書)

 19世紀から20世紀前半にかけて,欧米や日本で猛威を振るった結核。芸術の分野では極度に美化され,美人や若き天才が儚く消えていくような,ロマンチックなイメージがまとわりついてきた。
 結核のロマン化という現象に興味をもって読んだが,古代からの結核の歴史,医学的な概要,現在も決してなくなっていないことなど,広く扱っている。広すぎて少し散漫な感じもした。この病気の,文学などでロマン化され強調されて人々の記憶に根付いている部分というのはやはり虚像なのだろう。

暴力団

暴力団 (新潮新書)

暴力団 (新潮新書)

 半世紀にわたって,山口組や他の暴力団について取材し,書いてきた著者の集大成。…にしてはあっさり軽く読める本。ですます調だし。今や暴排条例で暴力団は青息吐息のようで,著者も自分の役割は終わったと感じている模様。
 暴力団のビジネスモデルは,組から許されて代紋を使うことで(すなわち虎の威を借って),子分が自己の努力でシノギをするというもの。代紋使用料として上納金を納める関係が,何次にもわたって階層構造を作り上げている。フランチャイズチェーンのオーナー店長に似ている(p.74)。
 伝統的なシノギの手口は,覚醒剤,恐喝,賭博,ノミ行為や管理売春だが,覚醒剤や売春は組として禁じているところも多いそうだ。バブル期には地上げや総会屋なども盛んだったが,今は見る影もない。社会からの圧力が強まり不況が続く中,シノギは厳しく,産廃処分や解体などで食っていくことも。
 産廃処分などで彼らに競争力があるのは,違法行為も敢行するから。不法投棄を厭わなければコストを下げられる。警察も,「奴らも繰って行かなくてはならないから」ということで目こぼしするとか(p.63)。暴力団警察の間にはある種の共生関係も
 ただやはり昨今暴力団は明らかに落ち目。末端組員の羽振りはまったくいいとは言えず,かつて人材供給源だった暴走族の少年から見ても魅力に欠ける。それに暴走族自体,規模が縮小している。不動産も借りられなくなるなど,暴力団は生活するなと言わんばかりの暴排条例が追い打ちをかける。
 海外のマフィアと日本の暴力団の比較,暴力団とは異なり秘密性・匿名性を重視する「半グレ集団」などの分析も興味深い。反社会的集団の主力は,暴力団から「半グレ集団」に移ってきているようだ。暴力団の構成員と会う際の注意なども参考になる。要するに,毅然とした対応が肝心。