3月の読書メモ(歴史・人物)

・歴史

 15-19世紀の欧州,王族・貴族の人間模様(男女関係)。いやはや何とも。
 フランスの王って王妃の他に公式寵姫がいて,それは普通に人妻だったりするのは有名な話。夫はその代わりに領地や爵位をもらえるので,まんざらでもないみたい。当時,正式な結婚は政略結婚だったので,かわいそうなのは王妃。王妃ではないが,この時期に恋愛結婚したというマリア・テレジアはほんとにすごい!その上,マリア・テレジアは,16人も子供を産んですごい。当時のことだから,夭折しちゃう子も多いが。娘を駒のように方々へ嫁がしたのは冷酷無情。それでも眼にかけた娘がいたのはやっぱり人間だもの。えこひいきはよくないけど。
 寵愛を失った寵姫の末路は悲しい。自分が追い落とした年増の寵姫と同じ運命をたどる。ルイ十四世の寵姫,モンテスパン侯爵夫人。ルイ十五世の寵姫,ポンパドゥール侯爵夫人。王妃一筋(?)だったルイ十六世はやはり異色。
 西洋も怖いが,後宮の怖さでは東洋も負けてない。劉邦の古女房の呂后,唐を一時中断させた則天武后,清の西太后。でもこれはちょっと怖さの種類がちがうかも。あんまり色っぽくないのはやはり東西の文化の違いかね。加藤徹さんの新書「西太后」はとても良い評伝だった。

大本営参謀は戦後何と戦ったのか (新潮新書)

大本営参謀は戦後何と戦ったのか (新潮新書)

 CIA文書から,戦後日本における軍閥の復活と暗闘を解き明かす。昔は素朴に戦争が終ってすぐ平和になったのかと思ってたが,もちろんそんなことない。占領期の社会は今の想像を絶する。
 旧軍の幹部には,占領軍にとって利用価値が高い者もいた。彼らはその知識・人脈を買われ,合法・非合法の情報活動・工作に従事する。もちろん過去の戦争犯罪は見逃された。辻政信なんかは,部下が戦犯として処刑されているのに…。
 温存された軍閥は,占領当初,武装解除と治安維持を円滑に行うために用いられる。逆コースに入ってからは,対ソ連のインテリジェンスや,台湾の国民党を軍事的に支援(日本義勇軍を組織)するなど,彼らの存在は欠かせなかった。彼らはいくつもの機関をつくって,GHQから予算をもらい,情報・工作活動をする。元軍幹部のこと,もちろん面従腹背で,情報をすべて渡したり,経費を正直に申告したりはしない。余った資金をプールするなどして,独自に策動する余地も残している。独立を見込んで,国防軍の創設に意欲を燃やした者たちもいた。そして占領が終り,公職追放されていた彼らも追放解除となる。辻などは,有権者に軍隊時代の部下が多く,国会議員に選ばれて国防族として活動。
 読んで思ったのは,やっぱり歴史って連綿と繋がっていて,社会が激変することはあるけれど,決して前後で分断されることはなく,あときれいごとで物事は進んでいかないよなってこと。学校で歴史を習ったときは,そんなことは気付かなかった。無味乾燥だった。

・人物

高木貞治 近代日本数学の父 (岩波新書)

高木貞治 近代日本数学の父 (岩波新書)

 大数学者ヒルベルトに師事して類体論を構築し,日本の近代数学にも大いに貢献した高木貞治の伝記。明治八年生れで,西洋数学を吸収するのに精いっぱいだった師や先輩を超え,世界的な仕事を成し遂げた。当時はドイツの科学水準はとても高かった。世界大戦を二回も経て凋落…さみしい。科学の中心はゲッティンゲン(独)からプリンストン(米)へ。高木もだろうが師のヒルベルトなど,相当へこんだことだろう。
 ヒルベルトは二次大戦中に死んでるけど。長く病んで,最後の洋行で訪った高木は,それでも知識を追求する姿に涙を禁じえなかったそうだ。高木が女流数学者のネーターとも親しかったとは知らなかった。ネーターは,対称性と保存量の関係に関する定理で有名。むしろ物理学の分野で,空間対称性から運動量保存が導かれたり,時間対称性からエネルギー保存が導かれたりするのを説明できる。これを知ったときは目から鱗だった。
 高木の著作はこの元旦に著作権が切れたが,『解析概論』はまだ教科書として現役。

岡本太郎 (PHP新書 617)

岡本太郎 (PHP新書 617)

 41年前の大阪万博で大屋根を突き破った「太陽の塔」。そのエピソードを中心に,岡本太郎の魅力に迫る。ベラボー,祭り。NHKドラマもなかなか面白い。震災で中断されていたけど再開した模様。著者は岡本敏子の甥だという。敏子は岡本の秘書だが,形式主義を嫌う岡本は彼女と結婚することなく養女にした。芸術家の考えることはよくわからんな。
 近美で岡本太郎展がやっているらしい。家族で行こうかなと思案中。太郎は「こどもが彫刻に乗りたいといったら乗せてやれ。それでモゲたらオレがまたつけてやる。」と言う人だったらしいがホントに乗れるのか?まさかね。

雄気堂々(上) (新潮文庫)

雄気堂々(上) (新潮文庫)

雄気堂々 (下) (新潮文庫) 澁澤榮一の伝記小説。妻が読んでたのを僕も。豪農の生れで,攘夷運動に身を投じるが,一橋家に拾われて幕臣となり,欧州留学のお供で身に付けた知識を買われて新政府で活躍,下野後は実業家として名をなした。小説は渋沢の結婚から最初の妻との死別まで。何だか中途半端な終り方。明治近代化に奔走した人々を八百万の神々」になぞらえて描く。城山三郎の小説は,「彼も人の子ナポレオン」もそうだったが,文章がなんだか無邪気で憎めない感じがする。